苦しみながらの勝利

第61回NHK旗争奪鹿児島県選抜野球大会

二回戦

鹿児島実 000 000 100 2=3 H8 E1

薩南工業 010 000 000 0=1 H7 E0

鹿実】福留-城下、玉田

【薩南】永江、土本-竹内

三塁打=川口(鹿実)

二塁打=吉木、山添(鹿実)

 


粘り勝ち

鹿実は2回に薩南工に先取点を奪われると、その後も追加点こそ許さなかったがピンチを迎えては凌ぐという苦しい展開。打線も薩南工先発の右アンダーハンド永江の前にゴロの山を築き、6回まで僅か1安打無得点。

劣勢で迎えた終盤7回、この日2番に座った椎原が先頭打者として出塁すると、4番吉木、途中出場の笹山が続き同点に。

その後チャンスを作るも勝ち越せず迎えた9回裏、先発左腕福留が二死満塁のピンチを招くも、辛くも凌ぎ切り延長戦へ。

延長10回表、先頭打者はここまで粘りの投球の福留。薩南工2番手土本から四球を勝ち取ると、犠打で進塁後キャプテン山添のセンター頭上を越える二塁打で勝ち越しのホームを踏む。その後も3番川口の三塁打で追加点を挙げ、鹿実が2点勝ち越す。

裏の守りを凌ぎ切り、ベスト8進出を決めた。

 

 

 

もう試合経過を書いてて疲れます(笑)なんとも息苦しくなるような試合でしたね……ここまで苦戦するとは、正直予想外でした。

やはり薩南工は毎年いいチームを作ってきましたね。試合中に一昨年秋の準々決勝を思い出しました。あの時も薩南工が相手で、右の本格派と左の技巧派のめまぐるしい継投の前に9回まで点が奪えず延長に縺れ込むという展開でした。

この日は序盤で先制も許しましたし、打線も中盤まで完璧に抑えられましたから「もしかして今日はこのまま…」と負けを覚悟したものです。

ただ、こういう劣勢をひっくり返す試合は貴重な経験になるはずですし、今後を考えると間違いなくプラスになるはず。エラーこそ1つ出ましたが、今日も守備から崩れるような兆候はありませんでした。粘り強く戦えるのがこのチームの強みですしね。

それでは、ポイントを絞って試合を振り返ってみようと思います。

 


「エース」の背中と、支えるバック

この試合先発の福留投手は春まで背番号1を背負っていたものの、今大会の背番号は「10」。エースナンバーを後輩の髙田投手に譲る形に。

たしかに、春の県大会から重要な試合での登板を任せるのはどちらかといえば髙田投手でしたし、登板機会も少なくなってきたことも事実。まだまだ不安定ながらも180センチを超える長身から140キロ近い速球を放る髙田投手と見比べると、福留投手には絶対的な球種がありません。それ故に厳しくコースを突いた結果四球が増え、ランナーを背負って甘くなった球を打たれるという場面にも何度か出くわしました。

ただ、私は今年のチームの投手陣を引っ張るのは彼だと思っています。

それは以前も述べたように、マウンド上での姿勢。先頭打者に四球を許したり、軽々と安打を許す事も少なくありませんが、そこからピンチを迎えても動揺を見せる事なく自分の投球を貫く芯の強さ。この試合ではそんな彼の真骨頂を見せつけられたような気がします。

四球が多いのも、決して「逃げ」の姿勢からではありません。むしろこの日は「四球を嫌って中途半端なボールを投げるくらいなら、自分らしく厳しいボールで勝負する」という信念すら感じました。これこそエースの姿ではないでしょうか。

そんな「エース」の粘りの投球に、バックもしっかり応えます。

先程も述べたように、この日は守備で崩れるような兆候が全くありませんでした。

山添くん、折田くんの二遊間は相変わらずの安定感で、難しい併殺を再三成功させてましたね。

球威で圧倒するタイプの投手ではないだけに、バックの好守は心強いはず。

この「粘りの守り」が終盤の逆転劇を生んだと言えるでしょう。

私が何度も主張しているように、鹿実の野球は好守一体型の野球。守りで作った流れを攻撃につなげる、というもの。

鹿実らしく戦って勝った。そう言える試合ではないでしょうか。

チームの成長ぶりに、私は手応えを感じずにはいられません。

 


新オーダーの成果は?スタメン争い激化!

今日の試合で印象的だったのがスターティングオーダーです。今までとは全く違う試みを感じ取る事が出来ました。

1番山添選手、3番川口選手、4番吉木選手…この三人は最早不動のレギュラーと言えるでしょうが、驚いたのは2番に座った椎原選手。一年生大会では吉木選手を差し置いて四番に座っていたように、元々この世代の主軸打者候補として期待された選手です。

秋も3番を任されていましたが、春は故障からメンバー外となり、その間に折田選手と藤村選手が台頭しポジションを奪われる形に。

今大会も二桁背番号でしたが、小技や足を生かすタイプの選手ではない彼を2番に据えてくるとは…プロ野球でも今「攻撃的2番打者」がトレンドになりつつありますが、このオーダーを継続するかどうか、次戦も注目したいです。

今日はその椎原選手のヒットが、反撃の口火となりました。それまでゴロを「打たされていた」アンダースロー独特の球筋を、引っ掛ける事なく綺麗にセンター前へ運ぶバッティング。まさに「低く鋭い打球」のスローガンそのものでした。

椎原選手がファーストを守った関係で、4番の吉木選手はライトに。ただ、元々は外野も任されていた選手なので動きに違和感もなく、鋭い送球で走者を補殺する場面もありました。今後はこういった起用方法も増えてくるかもしれません。

ただ、今日の同点タイムリーを放ったのは、新オーダーの割を食ってスタメンを外された途中出場の笹山選手でした。アンダースロー攻略のお手本のような流し打ちでしたね。彼もここまで守ってきたセンターのレギュラーの座を、そう易々と手放したくないはず。

春の大会勝負強い打撃でチームを支えた5番の叶選手も、決してレギュラー安泰の立場とは言えなくなってきました。

また、代走から途中出場した2年生の平選手も1安打を放ち、徐々にですが存在感を放ってきています。走攻守とも高い能力を備えており、先輩を差し置いてスタメンに起用される日も近いかもしれません。

激しい競争は、チームを強くするためには必要不可欠です。本人たちは必死でしょうが、この状況はチームとしては歓迎すべきでしょう。

これを乗り越えてグランドに立つ者に、初めてチームを背負って戦う権利が与えられるのです。

まだまだこのチームは発展途上、しかしだからこそ強くなる余地がある。まだまだその過程を見続けていたいと、私は強く願っています。

 

 

 

仕切り直し、伝統の一戦

新チーム最初の公式戦の昨秋市内新人戦。樟南との「伝統の一戦」がいきなり実現しました。

とはいえ、その試合内容は「伝統」という格式とは程遠いお粗末なもの。両軍合計7人の投手をつぎ込み、合わせて23点の乱打戦。最終回鹿実が6点をリードするも、樟南が一挙7点の猛攻でサヨナラ勝ちするという、とにかく最後まで落ち着きのない展開でした。

この頃から両チームとも、「柱になる投手がいない」と囁かれるようになりました。

鹿実は当時登板しなかった福留投手や髙田投手が台頭し、なんとか夏のシード権が確保できるところまで持ち直すことができましたが、樟南は一年通してここに苦しみ続けた印象です。

しかし、今大会2試合を勝ち進んできたその戦いぶりを見ると、おそらくここに来てチーム状態が上がってきたのでしょう。まだまだ例年ほどの安定感は無いかもしれませんが、れいめい戦で好リリーフを見せた一年生の西田投手や、本職は野手ながらも鹿屋農戦の終盤に登板し追撃を阻んだ城須選手など、新戦力が台頭してきています。

やはり伝統校。結果が出ずに苦しんでもキッチリ夏に合わせてくるのは流石です。

樟南はポイント的に今大会で決勝まで勝ち進まないとシード権が厳しい状況。それだけに鹿実戦も全力で来るでしょう。鹿実もそれに負けない気迫で戦ってほしい。本気の樟南に勝つ事は、これ以上ない経験値になるはずです。

何より、九州大会以降負け続きの流れを変えてほしい。夏のシード獲得以上に、どういうチーム状態で夏を迎えるかの方が非常に重要なはず。

この強敵に勝って、良い流れを呼び込んでほしいです。

 


簡単な相手でない事は間違いありませんが、次戦も勝利を期待してます!