王道

早いもので明後日日曜日の28日に鹿児島の夏の王者、鹿児島の甲子園出場校が決まります。鹿実の名がここに残っていない夏というのはなんとも寂しい気分になりますが、それが夏のトーナメントというもの。だからこそ、鹿実に勝った国分中央に甲子園を託したい気持ちで今日の準決勝を見ていました。

しかし残念ながら、国分中央は神村学園相手に敗退。先制されながらも焦りを感じさせない神村の試合運び、バッテリーの隙を見つけては果敢に盗塁を仕掛ける狡猾さ、派手さはなくてもミスの少ない内野守備。まさに試合巧者と言うに相応しい戦いぶりでしたね。

国分中央今村投手には疲労の影響もあったでしょうが、やはりチーム力には一枚も二枚も神村が上手だなと認めざるを得ない結果でした。

神村は個々のポテンシャルの高さで圧倒するチームのイメージが一般的ですが、その実はチーム単位でじわじわとあらゆる方向からプレッシャーをかけるその戦略性の高いスタイル。それこそが強さの秘訣だと私は考えております。

試合前から対戦の可能性のあるチームを徹底的に研究し尽くしまる裸にし、選手一人一人に相手の隙を突くためのプレーが落とし込まれている。それでいて、9イニング全てを有効に使った戦い方をしてくるーーー実際に鹿実も、春の県大会決勝で神村のしたたかな戦いぶりに圧倒されました。

当時制球難を抱える髙田投手に対し球数を放らせ四死球を選び、貯めた走者を確実に返していく。終盤こそ鹿実も追い上げたものの、見事にこちらの弱点を突く的確な攻めは脱帽するしかありませんでした。

しかし、その神村ですら九州大会は初戦敗退。鹿児島県勢としてもここ数年、甲子園で2勝目の壁を超えられないのが現状です。

県勢の選手権最後の2勝は宮下監督初陣の2008年鹿実、選抜を含めても野田投手や豊住主将を擁した2011年鹿実まで遡らなければなりません。

もしかしたら、今年の代表校がこの2勝の壁を超えてくれるかもしれませんが……この現状は、ここ10年で夏の代表を3回務めた鹿実にも責任があると認めなければなりません。

 


やはり私は、鹿実が甲子園で勝つ姿をもう一度見たい。

甲子園で一勝を挙げる事も、そもそも甲子園に行く事すらも、そう簡単な事ではないのは理解してます。

ですが、あえてファンなりのエゴを言わせていただくと、鹿実にはいつまでも鹿児島を代表する存在であってほしいのです。子供の頃私が憧れたような、強くカッコいい存在であってほしいのです。

 


なぜ先程神村の野球スタイルの話をしたかといえば、それは鹿実と対照的なチームだからです。相手に合わせ立ち回る神村のスタイルに対して、鹿実は「我々はかく戦う」と宣言するように自らの磨き上げた野球を愚直に相手チームにぶつけに行くスタイル。それ故にキッチリ弱点を突いてくるチームには苦戦する傾向にあります。だから「古い、時代遅れ」と言われるのも理解はしてます。

ですが、私はこの鹿実野球が大好きです。一点一点を泥臭く奪いに行き、奪ったリードをこれまた泥臭く守りきるという野球。「俺たちはこれだけのことをやってきた。だから負けるわけがない」という練習量に裏打ちされた自信溢れるプレー。昭和の時代から続く、「これぞ高校野球の王道」という野球。

合理的ではないかもしれない。論理的ではないかもしれない。それでも私はこの鹿実野球を見る度に、震えるほど感動を覚えるのです。

この新しい令和の新しい時代にも、鹿実のような古臭いスタイルのチームが一つはあってもいいのではないでしょうか。異なるスタイル、異なる信条を持つチーム同士の戦いにこそ、高校野球の感動は生まれるのですから。

 


もちろん、王道で勝ち進めるほど高校野球は簡単ではありません。なぜなら全国4000校で王者になれるのは僅か1校だからです。

王道で勝つためには、それに相応しい力を身につけなければなりません。投手、打者、守備、ベンチワーク……その全てで相手チームを圧倒しなければ、いとも簡単に牛耳られてしまいます。

だからこそ新チームの鹿実には王者になってほしい。ここ4年間手に入れていない秋の鹿児島王者、並びに神宮決勝まで勝ち残った2010年以来の九州王者を本気で目指して戦ってほしいと願います。

外野席から言うのは簡単かもしれませんが、この一年間は勝てない時期の苦しさを散々味わってきたことも私は理解してるつもりです。

皆さんの矜持を満たすためには、結果を残す他ないです。宮下監督の口癖である「勝てば全てが正解になる」の真意もここにあるのでしょう。

 


今大会決勝に勝ち進んだ神村は主力投手陣が二年生ばかりですし、鹿屋中央にもレギュラーに下級生がいます。れいめい、城西、樟南なども強敵として牙を剥いてくるはず。生半可な力では鹿児島を勝ち上がることも難しいでしょう。

必要になってくるのは真の力強さと凄味です。

 


新人戦まで一カ月、本番の秋季大会まで二カ月。

その間に、本物の王者に相応しい力を身につけていけるよう祈ってます。

 

 

 

第102代鹿実野球部の皆さん、王道を極めてください。