連覇成らず……鹿実野球部、第一シード神村学園の前に屈す。

残念ながら、今年は甲子園に届かず。

 

第105回全国高校野球選手権 鹿児島大会

 

準決勝

鹿児島実001 210 0=4H9 E2

神村学園001 322 3x=11H12E0

【投ー捕】

鹿実:井上、西、菅田ー溝口、新改

神村:松永、黒木ー品川、松尾大

※7回コールド

3年連続で実現した県内屈指の強豪同士の対決。鹿実はこの一戦を背番号10の速球派右腕、井上投手を今大会2度めの先発に立ててきます。一方神村はエース松永投手で必勝態勢。

鹿実は3回表、2番満留選手の適時打で先制するも、その裏神村にすかさず追いつかれる互角の展開。続く4回表、鹿実打線は松永投手を攻め立て二死ながら満塁の好機を作ると、前の回同点を許した井上投手が2点タイムリーヒット。自らのバットで勝ち越し点をもぎ取ります。

ただし、その裏の守りからは神村ペースの展開に。一死一二塁から井上投手がバント処理の際に一塁悪送球し1点差に。その後四球で満塁とすると、鹿実ベンチはここで左の技巧派、西投手を早くも投入。総力戦で戦う姿勢を見せるも、直後迎えた神村の主砲今岡歩夢選手に押し出しの死球を献上し同点。続く増田選手のスクイズを本塁封殺するも、一塁ベースカバーに入った名手満留選手が溝口捕手からの送球を逸らし二塁走者の生還を許す事に。これで神村は1点勝ち越し。

続く5回表に鹿実は丸山選手のタイムリスリーベースで一時は追いつくも、その後は防戦一方。勢いづく神村打線を西投手、菅田投手は抑える術がなく、3人の継投で計11失点。

一方序盤好調だった打線は神村の二番手左腕黒木投手の速球とキレのある変化球を捉えきれず、最終的には4−11で7回コールドゲーム成立。

過去2年鹿実に敗れた悔しさを知る神村にリベンジを果たされる形で、今年の鹿実の戦いは終止符を打たれる事となりました。

 

◆光った「三年力」も、リベンジに燃える王者に隙なし……悔しさを次の世代へ!!

完敗。悔しいですが率直にそう表現する他ない試合となってしまいました。実際中盤以降は鹿実が思い描いた展開に持ち込めなかったのが事実です。

相手の力が上なのは理解してましたが、このチームは多少の力差があったとしても喰らいつく「底力」が最大の武器。その強みを発揮する事なく敗れてしまったのは、「守りからリズムを作る」というチーム本来の野球が実践できなかった事に尽きます。2つのエラーだけでなく、投手陣が献上した計10個の四死球も、反撃の機運を作る上でマイナスとなったのは間違いないでしょう。

誰が悪いといいたいわけではありません。これはチームとしての敗戦です。この日試合に出ていた選手たちは、疑う余地のない今年の鹿実の最上のメンバーでした。このメンバーで戦い敗れたならば、相手の強さを讃えるべきです。

神村は技術や力強さはもちろん、今岡主将を中心に非常にまとまったチームでした。また、彼らは2学年続けて鹿実に敗れてきた先輩たちの背中を見て育ってきた選手たち。この一戦に賭ける気迫のようなものは、画面越しからも伝わってきました。私はまだファンとして鹿実が敗れた悔しさを拭う事ができていません。しかし、同時に勝った神村は勝者に相応しいチームであったと思います。続く決勝ではタイブレークの末、劇的なサヨナラホームランで甲子園を勝ち取りました。鹿実を圧倒したチームなのだから、ぜひ甲子園でもその強さを証明する戦いを魅せてほしいと願います。

一方の鹿実ですが、今年のチームもここまで勝ち残るまで決して平坦な道のりでなかったのも事実。秋の大敗直後に主将の退学。そこから再出発を経て、なんとか今年も優勝を狙える位置まで登り詰める事ができたのですから。これは紛れもない3年生たちの努力の成果です。甲子園に届かなかった以上、満足いく結果ではなかった事でしょう。それでも鹿商戦の平山主将のホームランや、準々決勝の「伝統の一戦」で見せた打棒、神村戦序盤での濵嵜選手と植戸選手の甲子園を知る二人の活躍、木村選手の気迫の守備に、レギュラー剥奪から這い上がった小村選手の活躍……宮下監督が強調する「三年力」は、今年のチームにも間違いなく備わっていたと思います。

そして、その3年生たちと共にグランドで戦った2年生たちに、私はこの日の悔しさを忘れないでいて欲しいと願っています。今年の神村がそうであったように、何より過去甲子園にたどり着いた先輩たちがそうだったように……悔しさを知るチームが、本当の強さを手に入れるのですから。栄光だけではなく学年を超えた悔し涙の積み重ねこそが、鹿実野球部の伝統の正体なのです。

おそらく、秋の大会以降鹿実は優勝候補として名前が上がってくるでしょう。今年の2年生が実力者揃いなのは間違いありません。ただし、九州大会への道のりは決して安泰とは言えません。同じく2年生レギュラーを多く抱える神村は、この夏甲子園を経験した上で秋の戦いに臨んできます。神村を決勝で土俵際まで追い詰めた鹿屋中央には県内屈指の右腕谷口投手が残りますし、鹿実を苦しめた樟南もエース新藤投手や4番坂口選手といった中心選手が引き続き主力となって立ち塞がる事でしょう。甲子園を目指すためには、そういった強敵を倒していかなければなりません。

「勝って我々の野球を証明する」

新チームでは指揮官のこの言葉を体現できるように、私は引き続きファンとして鹿実の野球を追いかけて行くつもりです。

 

◆大きな野球小僧、永遠に

神村戦の直前に、悲しい一報が舞い込んできました。鹿実野球部OBである、元阪神タイガース横田慎太郎さんの急逝です。

かつて私にとって「新聞やテレビの向こう側」の存在だった鹿実野球部。そこから球場に足を運び、この目でその戦いを見届けたいと思うようになったきっかけが彼でした。

野田昇吾投手や豊住康太主将を中心に神宮大会準優勝や選抜ベスト8の実績を提げて凱旋した2011年のチーム。その強力なラインナップに、福永泰志選手と共に一年生ながら名を連ねた横田選手には、私もその時点で「いったいどんな選手なんだ」と興味深々でした。

早々と結果を出す福永選手と違い、当初から目立った成果を出せたわけではありません。ただ、NHK旗で代打として打席に立った横田選手の纏う迫力に、私は大きな可能性と期待を抱いた事だけははっきりと覚えています。

新チーム以降も大きな体とパワーをうまく扱いきれず結果を出せない試合も少なくありませんでしたが、試合を経る度に着実に上手くなって行く彼の成長度は勝敗を超えて楽しみになっていきました。3年の頃には手がつけられないレベルの選手となり、私は見たこともない速度の打球を目撃するようになりました。

肉体的ポテンシャルにこそ恵まれてはいましたが、決して器用な選手ではなかったと思います。ただ、誰よりも野球が好きで、野球を上手くなりたい。そんな純粋な思いがプレーから滲み出た彼を見る事が、当時の私の最大の楽しみでした。さらに彼を通して、私は画面越しでは気づく事ができない鹿実野球部の魅力にも魅せられていきました。

残念ながら、横田選手は甲子園にたどり着く事もなく、プロの世界でも大成する事もありませんでした。しかし、見た人誰もが魅了される素晴らしい選手だったことは間違いありません。

あまりにも若く、早すぎる別れ。それは残念でなりません。

しかし、彼のような選手が鹿実のユニフォームを着て、泥だらけになりながらプレーしていた日々を私は今も鮮明に思いだす事ができます。

横田慎太郎というすごい選手がいた事を、私はこれからも忘れる事はないでしょう。

長く辛い闘病生活、本当にお疲れ様でした。

謹んで哀悼の意を表します。

 

 

 

頂点へあと2勝!!鹿実野球部、準決勝へ挑む。

第105回全国高校野球選手権 鹿児島大会

鹿児島実業野球部、今大会戦績

 

1回戦

鹿児島実531 55=19H16 E0

3校連合000 00=0H1 E6

【投ー捕】

鹿実:井上ー溝口、新改

連合:有馬、芦谷原ー志水、関

※5回コールド

※連合は鹿児島第一、霧島、串良商

 

2回戦

鹿児島実000 030 120 2=8H10 E4

鹿児島商001 001 022 1=7H16 E2

【投ー捕】

鹿実:西、菅田ー溝口、新改

鹿商:坂口、江口、稲森ー上妻

※延長10回タイブレーク

 

3回戦

鹿児島実012 040 1=8 H13 E0

池  田000 000 0=0 H6 E1

【投ー捕】

鹿実:菅田ー溝口、新改、木村

池田:久保、西村元ー西村元、浜村

※7回コールド

 

準々決勝

鹿児島実010 040 000=5 H9 E1

樟  南010 000 000=1 H4 E1

【投ー捕】

鹿実:井上、西ー溝口

樟南:濵田、新藤ー福元、南

 

◆御三家対決を制し4強入り!苦しみながらも光った勝負強さ

7月の頭に開幕した鹿児島県大会ももう終盤。鹿実は4強まで勝ち進む事ができました。

1回戦と3回戦はコールド勝ちでしたが、2回戦と準々決勝では鹿児島商、樟南という強豪と対戦し、苦戦を強いられてきています。

鹿商、樟南といえば、鹿実とともに昭和から平成にかけ長年鹿児島の高校野球をリードしてきた鹿児島高校野球「御三家」の一角。樟南とは一昨年も決勝で甲子園を賭けて戦ったように近年もライバル関係を維持していますが、今大会二回戦での鹿商との対戦は夏の大会において実に19年ぶり。大会優勝候補に挙がる事が当然だった当時と比べると、今の鹿商の立ち位置はだいぶ様変わりした印象です。

ただし、今年の鹿商の実力は決して「衰えた古豪」ではありませんでした。中でも打線は4安打を放った3番上妻選手を筆頭に上位から下位まで振れており、鹿商のチーム安打16本は鹿実を大きく上回るもの。終盤は常に鹿商に主導権を握られていた展開で、対する鹿実は守備陣が焦りからか計4失策を献上するなどらしくないプレーも目立ちました。

本来であれば完璧な負け試合。しかし、こういった展開でも負ける事なく勝ちきった。負けたら終わりの夏のトーナメントでは、そこに最大の価値があります。

一打サヨナラ負けの場面で魅せた木村選手のファインプレーや、タイブレークにもつれた延長戦での4番濵嵜選手のバント、そのチャンスをものにした平山主将の一振り。これらのプレーには勝利への渇望、執念が滲み出ていました。不恰好でも、泥まみれでも、最後には勝利を掴み取る。ここには鹿実「らしさ」も感じ取れました。こういった苦戦を経験する事で、チームは大きく成長を遂げたはずです。

そして準々決勝樟南戦。樟南は春、NHK旗と決勝まで勝ち進んでおり、今季の実績では鹿実より上。夏の直接対決でも過去3連敗中の天敵でもあります。

ただ、この日の鹿実メンバーからは画面越しにも「樟南には負けたくない」という気迫が溢れているように見えました。

ここまで当たりのなかった主砲植戸選手の二塁打に、今大会初スタメンの小村選手の先制タイムリー。この日も試合を決める一打を放つ平山主将の勝負強さ。丸山選手、満留選手の2年生二遊間コンビの必死の守り。

これらのプレーは、樟南と言う過去多くの名勝負を繰り広げて来た好敵手が相手だからこそ引き出されたものでしょう。

樟南も例年のごとく守りが鍛えられたしぶといチームでした。西投手の好リリーフがなければ、もしかしたら結果が逆だったかもしれません。

攻守の中心選手である4番ショート坂口選手、終盤4イニングで1点も取る事ができなかった新藤投手はいずれも2年生。彼らが秋以降の中心になると思えば、樟南とのライバル関係は来年も継続していきそうです。

宿敵を倒してたどり着いた準決勝。これからの相手はより強力になっていきますが、鹿実は今大会「御三家」最後の砦。そして御三家同士の戦いを制してここにいるのです。鹿商と樟南の主将はそれぞれ悔しさを滲ませながら「最後の相手が鹿実で良かった」と口にしていました。

ならば、鹿実ナインは彼らの思いに応えなければなりません。

 

さあ見せろ、御三家の意地を。

 

◆最後の夏、今度こそ「3強」へのリベンジを

鹿実が御三家の最後の砦なら、同じくベスト4に残った神村学園鹿児島城西鹿屋中央は今季の鹿児島高校野球における「3強」と言えるでしょう。私は昨年の新チーム結成直前、今年の鹿児島は上記3校を中心とした勢力図になると見ていました。2年生時からのレギュラー選手が多く、それぞれ県内有数の実力の選手を抱えている事からそう見立てていましたが、秋、春、NHK旗といったここまでの公式戦の結果、そして今大会の勝ち残りを見れば、その見立ては間違っていなかったと実感します。

ただ、私はあくまで鹿実野球部を応援する立場。鹿実はここまでの主要3大会ではまさにこの「3強」にそれぞれ悔しい思いをさせられてきました。特に秋の大会で城西にコールド負けを喫した時は、「このままでは厳しいかもしれない」と思ったのが正直なところです。今年のチームはその敗退から3強との差を地道に埋めてきて、ついにこの夏の舞台で甲子園が懸かった挑戦権を手に入れてくれました。ここまでの成長度合いは誇るべきものです。

まだ現時点でも3強の方が戦力的には上手かもしれませんが、それでも劣勢や困難を魂とド根性でひっくり返すのが鹿実野球。今年のメンバーもその真髄を魅せてくれるはずだと、私は信じています。

次戦準決勝は県内二冠の神村学園。神村にとっても鹿実は2年連続で敗れた宿敵ですし、きっと「これ以上負ける訳にはいかない」と闘志を燃やしてくる事でしょう。挑む立場の強さは、私もよく知っています。

上記の精神的な部分に加え、戦術的な部分でも今年の神村は一味違います。例年通りの強打と強力投手陣に加え、例年以上に細かい野球を得意としている印象です。一筋縄ではいかないチームなのは間違いありません。

 

勝利の鍵になるのは、やはり神村の強力投手陣を打線がどう攻略するか。左の黒木投手と、右の松永投手はいずれも140km/hをゆうに超える本格派。打ち崩すのは容易ではありませんが、鹿実サイドとしては序盤から優位に試合を進めなるべく2年生投手たちを楽にしたいところです。相手もこちらの対策は練ってくるでしょうが、今の打線なら決して不可能ではないと思います。

結果はどうなるかはわかりません。一つ言える事は、互いに譲れぬ思いと理由がある以上、このカードが今年も白熱した一戦になる事だけは間違いないでしょう。

 

痺れる勝負を、魅せてくれ

 

 

 

逆襲へ、連覇へ……鹿実野球部夏の陣、いざ始まる!

ご無沙汰しております。今年度はこのブログを始めて最も更新が少ない1年となってしまいました。今までご覧いただいていた読者の方々には、本当に申し訳ありません。

 

夏の甲子園に直結する選手権鹿児島大会も既に開幕しましたが、今も鹿実野球部を応援する気持ちに変わりはありません。なので、遅くなってしまいましたが、今年も夏の鹿児島の頂点を目指す鹿実野球部のメンバー、チームカラーを紹介していこうと思います。

 

◆無冠に終わるも昇り調子。チームを底上げする下級生たち。

今年1年鹿実野球部は、ここまで県レベルの公式戦で頂点を勝ち取れずに終わりました。それどころか、決勝に勝ち上がった大会もありません。

実績面では秋とNHK旗を制した神村学園、春の覇者鹿児島城西、秋春それぞれファイナリストの樟南や鹿屋中央に及びません。そして今季の鹿実は、そういった実績上位校相手に苦杯を舐めてきました。

第5シードこそ勝ち取ったものの、優勝を目指すには物足りない……

現時点での鹿実に対する評価は、そういったところではないでしょうか。

しかし、敗れた試合だけ見ても鹿実野球部は新チーム結成後着実に成長してきている事がわかります。

 

【秋準々決勝】3−11鹿児島城西(7回コールド)

【春準々決勝】3−5鹿屋中央

NHK準決勝】4−5神村学園

 

秋こそ大敗を喫しましたが、着実にその点差を縮めてきています。ここには投手陣を中心とした2年生世代の成長が大きく関わっていると言えるでしょう。

宮下監督が毎年「最後は3年力」と公言するように、例年鹿実は上級生主体のメンバー構成になる事がほとんどです。ところが今年は、投手陣に関しては全員が2年生。野手も守備の要である二遊間の満留裕星(右投左打)選手、丸山陸(右投右打)選手が共に2年生であり、打線でも彼らが1-2番コンビを形成しています。投手陣に関しては3年生世代に投手経験者が少ないというチーム事情もありますが、だからといって彼らが「消去法エース」などという事は決してありません

投手陣の柱を担うのは菅田空来(右投右打)投手、西悠太朗(左投左打)投手の左右2枚看板です。

菅田投手は抜群の制球力を駆使し、縦と横の変化球で打者の的を絞らせない投球が魅力の正統派右腕です。秋の時点では球威不足な感は否めませんでしたが、ここにきてコンスタントに130キロ台中盤を記録するようになってきました。より力強さが身についてくれば、もっと名が知れ渡る投手になってきそうです。

西投手は球速こそ菅田投手より一回り落ちますが、左腕らしく右打者の懐を厳しく突く攻撃的な投球が持ち味。それでいて、左右に鋭く曲がり落ちる変化球も併せ持つなど、決して「攻め一辺倒」の投手ではありません。ゾーンを幅広く使えるという点では彼の方が上手でしょう。

彼らを追いかける存在なのが、秋のエース格として活躍した力投派・井上剣也(右投右打)投手と180センチの長身右腕・大迫比哉琉(右投右打)投手です。井上投手は秋時点で140キロを計測するなど、鹿実一のスピードを誇るパワーピッチャー。私が見た春時点の試合では調子を大きく崩している様子で、自慢の速球を簡単に捉えられるなど不安の残る内容でした。しかしそこから復調しているという情報もありますので、夏は彼の出番にも期待したいところです。

大迫投手は投手陣一の長身という事もあり、マウンド上での迫力は上記3人を凌ぐものがあります。まだまだ荒削りではありますが、同級生の活躍に刺激を受けているのは間違いないはず。この夏は戦力として稼動してほしいですね。

下級生である彼らには、もちろん夏の経験値という不安要素が付き纏うのも事実です。実際、鹿実が2年生エースを擁して甲子園に出場したのは97年が最後。そのエースは後の甲子園ノーヒッターであり、沢村賞投手であるレジェンド・杉内俊哉投手。逆に言えば、下級生投手で鹿児島の頂点に辿り突く事のハードルは決して低くないと言えるでしょう。ただ、私は彼らにそれを乗り越える力があると信じています。

そして乗り越えるためには、彼らを支える野手陣の活躍が必須。今季の鹿実は決して「投手陣におんぶにだっこ」のチームでは決してありません。

次の項目では、3年生を中心とした野手陣を紹介していきたいと思います。

 

◆荒治療に応えた主将たち……魅せろ3年力!!

昨年甲子園を経験した鹿実でしたが、秋の大会後チームに激震が走りました。当時の主将であり、甲子園でもレギュラーショートとして活躍した選手がチームを去る事になったのです。彼の華麗な守備と闘争心剥き出しのバッティングは魅力的でしたし、新チームでもチームの先頭になって牽引してくれる事を疑いなく期待していました。それだけに、その一報を聞いた時は驚きと同時に落胆した事を今でも覚えています。

ただ、彼が去った後もチームは歩みを止めませんでした。

新主将の平山翔悠(右投右打)選手は、新チーム結成直後はレギュラー当落戦上の立ち位置でした。それが今や4番を打つ事も増えてくるなど、チームの不動の主軸打者に成長しつつあります。プレーだけでなく、誰よりもグランドで声を出す姿勢や所作など、主将の肩書きもだいぶ板に付いてきた印象です。

この平山主将を筆頭に、打のキーマンはやはり3年生たち。

甲子園でもクリーンアップを打った植戸颯大(右投左打)選手のバットコントロールは県内屈指。夏もポイントゲッターとしての活躍が期待されます。何より彼は、甲子園に「忘れもの」がある選手。昨年の甲子園初戦では、ライトを守る彼のエラーが失点につながり、期待された打撃ではノーヒット2三振。いいところなく甲子園を去る事になりました。本人もきっとその悔しさを今も胸に抱いている事でしょう。今年の夏は、彼の一振りでチームを勝利に導くような活躍を期待しています。

また、昨年から代打として試合経験を積んできた4番の浜嵜真太郎(右投右打)選手や、勝負強い打撃でレギュラーを勝ち取った叩き上げの木村成(右投右打)選手、攻守共に成長著しい扇の要・溝口漣(右投左打)も頼もしくなってきました。

そんな3年生たちにも宮下監督は夏直前に「荒治療」を処方します。

NHK旗では木村選手を除く3年生レギュラーたちにほとんど打席に立つ機会を与えないという大胆な采配に打ってでたのです。そこには日々野球に打ち込む彼らの姿勢への不満と、さらにここから成長して欲しいという期待があったのでしょう。そしてその采配は、ただ「干す」だけでは終わりませんでした。

序盤から劣勢を強いられた準決勝神村戦では、後半戦から彼ら3年生を一気に投入。その際に宮下監督は「3年生の意地を見せて来い」と選手たちに伝えたといいます。

そして、途中出場した3年生たちは全員安打を放ち、指揮官の期待に応えました。特に平山主将は、最終回に1点差に詰め寄るホームランを放つなど主将の面目躍如を果たしました。もちろんその手法には賛否あるでしょう。しかし、どんな状況でも腐らず、諦めず、這い上がる姿勢を見せる。これこそが鹿実野球だと私は改めて実感しました。

今年の三年生は優等生ではないかもしれない。でも、やる時はやる男たちだ。私はそう確信しています。

彼ら上級生が強固な土台になる事によって、主力の下級生たちはより伸び伸びプレーできるはずです。その好循環を生み出す事ができれば、2年連続の甲子園は大きく近づくはずです。

 

さあ、今こそ「3年力」の魅せどころだ!!

 

 

 

鹿実野球部新チーム、秋3年ぶりぶりのベスト8進出!いざ、決戦の準々決勝へ!!

◆第151回九州高校野球鹿児島県予選

 

1回戦

連  合 000 00=0

鹿児島実 10313 1X=27

【投手】 

連合:吉川、森

鹿実:菅田

※連合=鶴翔、古仁屋、奄美

 

2回戦

鹿児島実 310 120 000=7

鹿児島  000 120 000=3

【投手】

鹿実:井上

鹿高:森山

 

3回戦

鹿児島実 011 221 1=8

鹿屋農  100 000 0=1

【投手】

鹿実:菅田、西

鹿農:吉元、中野、竹下

 

お久しぶりです。これが新チーム結成後初のエントリーになります。本当はもっと早く更新するつもりでしたが、相変わらずの遅筆でこのタイミングになってしまいました。

さて、甲子園での敗戦からスタートしたこの秋の新生鹿実野球部ですが、8月末の市内新人戦を優勝。シードとして臨んだ秋の本大会でもここまで危なげなく勝ち進んでいるように見えます。正直なところ私は、大会前はもっと苦戦を強いられるのではないかと危惧していました。過去2年鹿実はこの秋の県大会でいずれも2回戦敗退しており、世代交代直後のスタートダッシュで躓いていました。それは故障者の続出や投手陣の不調、さらに強豪校との早期対戦といった要素が絡んだ結果でもありましたが、今季のチームにも不安要素がないわけではありません。

それは甲子園帰りで新チームスタートが遅れた点も一つですが、私が懸念したのは投手陣です。この夏引退した三年生を除けば、現チームに公式戦で登板した経験のある投手が皆無だったことと、その人材が全員1年生で固められていたこと。当然実力を踏まえての起用でしょうが、この時期から一年生投手にチームの命運を託すことにファンとしては不安を抱いたのは事実です。実際優勝した新人戦も、決して盤石での優勝というスコアではありませんでした。

ただ、その経験を糧にしたのでしょうか。本大会に入ってからの投手陣はここまで十分な結果を示してくれています。

初戦と3回戦で先発を務めた菅田投手は鹿屋農戦の初回に喫した1失点のみで、2回戦の鹿高戦を完投した井上投手も中盤に崩れかけながらも粘りの投球でチームを勝利に導いてます。無論そこには経験豊富な上級生野手陣の援護があったからこそなのは言うまでもありません。ここ数年の同時期と比較すれば、現時点では最も良い仕上がりを見せているのではないでしょうか。

ただし、次戦にはこれまで以上の強敵が待ち構えています。それは今大会において優勝候補筆頭との呼び声が高い鹿児島城西

来季のドラフト候補とも評される主砲明瀬選手を筆頭にどこからでも長打が期待できる打線に加え、他校に行けば間違いなくエースクラスである投手が3人以上はいる分厚い投手陣。これほどの大型チームは、過去の鹿児島高校野球史を振り返ってもなかなか見当たらないのではないでしょうか。当然厳しい戦いが予想されます。

しかし、だからこそここを突破する事には大きな価値があります。

鹿実は甲子園に大きな忘れ物をしてきたばかり。鹿実野球部の甲子園最終戦績を初戦敗退のままにしていては行けません。そのためには、ともに甲子園を懸けて戦う目の前のライバルを倒していかなければなりません。鹿実は19年秋の県決勝を最後に城西相手には連敗中でもありますが、その流れを止めるチャンスでもあります。鹿実野球部が県内の特定のチームに負け続けではいけません。敗北を糧にして、負けた相手に雪辱を晴らしてきたのが鹿実の伝統ですから。

繰り返しになりますが、厳しい戦いなのは承知の上。ですが、私は再び栄光を手にする鹿実ナインの勇姿を見たいと願っています。夏の甲子園を決めた後のインタビューで、宮下監督が宣言した「強い鹿実」の帰還はまだ道半ば。しかしながら、その日が来るのは近づいていると私は信じています。

 

さあ、栄光を掴みに行こう。

 

試合をリアルタイムで見る事は叶いませんが、鹿実野球部の勝利を祈り応援しています。

鹿実鹿実野球部、エース赤嵜好投も……明秀日立に惜敗。

遅ればせながら、選手、指導者、関係者の皆さん。本当にお疲れ様でした。

まずはいつものように試合の振り返りと、その感想を述べていこうと思います。

 

◆第104回全国高校野球選手権

二回戦

鹿児島実 001 000 000=1 H6 E4

明秀日立 000 000 11x=2 H6 E1

【投ー捕】

鹿実:赤嵜ー濵﨑綜

明秀:石川、猪俣ー伊藤

 

赤嵜好投に好守披露も…相手エース攻略できず、終盤痛恨の守乱

両チームの監督が共に「勝つには4点勝負」と読んだこの試合。序盤は息の詰まるような重苦しい展開となりました。そして、そう仕向けたのは間違いなく鹿実側です。

先発マウンドの赤嵜投手は立ち上がりやや制球に苦しみながらも、持ち前の丁寧な投球で連打を許さない粘り強い投球を披露。一方打線は左の石川投手相手に初回こそ三者三振を喫するも、2回は4番永井選手の安打と、5番濵﨑選手のエンドラン成功で無死二、三塁の得点チャンスを演出。しかし、後続の3人が凡退し先制とはなりませんでした。

続く3回、鹿実は制球に苦しむ石川投手から粘り強く四球を勝ち取り二死満塁のチャンスを作ると、打者濵﨑選手の打席の途中で明秀日立が投手をスイッチ。右のエース猪俣投手が投入されます。その初球がボールとなり押し出し四球、これで鹿実は先制点を挙げます。

先制した後の赤嵜投手は頼もしい事この上なく、県大会同様ストライクゾーンを広く使う投球で明秀日立打線を翻弄。バックも筏選手のスーパーキャッチなど、好プレーでエースを盛り立てました。

中盤までの試合運びは思い描いた通り。攻撃力が持ち味の明秀日立に「1点が重い」と感じさせる事に成功しました。

ただ、誤算だったのは攻撃面。3回の押し出し以降、明秀エース猪俣投手からチャンスこそ作るもあと一本を打てない攻撃が続きました。茨城大会では制球に苦しんだ印象があった猪俣投手ですが、この日は厳しい内角をきっちり攻める制球に加え、自己最速を更新する145キロの速球で鹿実打線を圧倒。結果的に次の一点を挙げられなかった事実が、今度は終盤の鹿実に重くのしかかってきます。

7回裏、明秀日立金沢監督は赤嵜投手攻略のために代打、代走にエンドランと次々と策を打ち、これが成功。さらにライト植戸選手が打球処理を誤る間に一塁ランナーが長駆生還し、これで同点。さらに8回裏、佐藤選手にこの日3本目の安打を許し出塁を許せば、続く石川選手のセカンドゴロを藤田選手が果敢に二塁併殺を狙いに行くもこれが悪送球に。さらにレフト駒壽選手もカバーにもたつく間に佐藤選手が本塁生還。ついに鹿実はこの試合相手に初めてリードを許します。

赤嵜投手は続くピンチを見事切り抜け、8回を自責点0と好投。エースの役割は十二分に果たせていただけに、立て続けの守備の乱れはまさに痛恨となりました。

とはいえ点差は僅か1点。最終回反撃に出たい鹿実は先頭の筏選手がこの日2本目の安打で出塁すると、続く田中選手が手堅く送り同点のチャンスを作ります。ここで打席を迎えたのが、直前の守りで手痛いミスにより勝ち越し点を献上した藤田選手です。「このまま終わるわけにはいかない」、そういった気迫を全身に纏った藤田選手は厳しいコースもファールで粘り、この打席で猪俣投手に実に9球を投じさせます。しかし、最後は敢えなくレフトフライに倒れると、続く一ノ瀬選手も凡退し反撃もここまで。

強豪相手に終盤まで接戦を演じるも、最後は相手のプレッシャーに屈する形となり、鹿実野球部は初戦で甲子園を去る事となりました。

 

遠かった一点、地力の差痛感。それでも……

1点差の惜敗。しかし、敢えてこう表現しますが、決して「紙一重の差」とは言い難い1点以上の力の差を見せつけられた。それが私の率直な感想です。

勝つチャンスがあった試合だったのも事実。ただし、終盤重なった守備のミスは「出てしまった」ものではなく、相手の仕掛けとプレッシャーに対応できなかったもの。「相手がそうさせた」と表現してもいいでしょう。打線も、県大会とは見違える投球を見せる猪俣投手を最後まで攻略する事ができませんでした。純粋に打てなくて、守りきれなかった。これは単純に相手チームを上回る実力を示せなかったと捉えるべきでしょう。強豪ひしめく関東を制した実力、底力…それを痛感させられた試合となりました。

とはいえ相手の実績、経験値の差は最初からわかっていた事。鹿実に求められたのはその実力差をひっくり返す戦いであり、さらには戦うごとに成長していく事でした。実際、県大会のこのチームはそうやって勝ち上がってきたのですから。

2ヶ月前、今年の鹿実が甲子園に辿り着く事を予想した人はどれだけいたでしょうか。故障者が続出しチーム編成に苦労した昨秋以降、このチームは勝利に見放され続けていました。唯一の実績と言えるベスト8に入った春の県大会もコールド負け。5月のNHK旗は直前にチーム内にコロナウイルス感染者が複数出た事によりぶっつけ本番で挑むも初戦敗退。「苦しい一年だった」という宮下監督の言葉も頷けます。そして、夏の初戦は昨年も激闘を演じた宿敵、神村学園。第三シードではあるものの優勝候補筆頭との呼び声も高く、春の県と九州大会を制した実績、実力とも間違いなく格上と言えるチームです。この時点で私は、早々の夏の終わりを覚悟しました。

ですが、このチームはその試練に立ち向かい、決して屈する事はありませんでした。故障から返り咲いた赤嵜投手が強打の神村打線を11回1失点に抑える好投を見せると、バックも好守で応え延長まで縺れた熱戦で勝利。ここから降したチームは勢いに乗ると、難敵強敵を次々に倒し2年連続の夏の決勝進出。甲子園行きの切符がかかる舞台では「ここで勝たなければ意味がない」と昨年の悔しさを力に変えて、選抜出場の第一シード大島に見事勝利。とにかく、一戦一戦強く逞しくなって行く戦いぶりに、私はこのチームの可能性を夢見ずにはいられませんでした。「きっと甲子園でもっと強くなる」と確信しましたし、敗れた今でもその可能性を疑っていません。

しかしながら、トーナメントである以上一度敗れたチームには次を戦う権利はありません。私はあの一戦から一週間近くたった現在でも、未だに気持ちを切り替えられずにいます。もうこのチームの戦いを見届ける事ができない……その事実を受け入れるまではしばらく時間がかかりそうですが、ファンとして熱い気持ちと感動を与えてくれた鹿実ナインの皆さんには、深く感謝申し上げたいと思います。好きなチームが甲子園で戦い、その一投一打に一喜一憂する。高校野球ファンとしてこれ以上の喜びはありません。

 

ここまで来てくれて、夢を見させてくれて、本当にありがとう。

 

「甲子園中止」から始まった世代……深まった絆

敗戦後の試合インタビューで宮下監督は、声を震わせながら選手たちを讃えたと報じられています。普段の宮下監督なら、敗れた試合でも悔しさこそ滲ませつつも毅然とした態度で受け答えするところ。私の記憶の限りでは、過去そのような姿を公に見せた事はありません。それだけ思い入れのあるチームだったという事でしょう。

全国どのチームもそうでしたが、今年の三年生は新型コロナウイルス禍という災厄の中、様々な制約を常に強いられた中で高校野球生活を送った世代です。筏選手ら県外から入学の選手は、当初ホテル住まいで授業や練習が出来ないという高校生活のスタートでした。そんなホテル住まいの新入生の早朝散歩に付き添うという経験は、宮下監督にとっても初めてであり戸惑いや不安もあった事でしょう。「甲子園が無くなるかもしれないと報道される中、最後の最後まで信じて疑わず練習に取り組む生徒たちの顔を見ると、涙が出そうになる」、そう口にする宮下監督の表情を私は忘れる事ができません。結果は夏の選手権中止となりましたが、宮下監督は県監督会会長として、夏の公式戦開催に最後まで尽力されました。それでも、宮下監督の胸の中には「甲子園を目指す事が出来ない代を作ってしまった」という無念がしばらく残っていたようで、昨年春の県優勝の際は立ち直るまでに時間がかかったという正直な思いを述べていたのも記憶にあります。

そんな時間を過ごしたからでしょうか。私はこの夏の鹿実の戦いを追いかける中で、宮下監督と選手の距離感が以前より近くなったような印象を抱きました。以前は「闘将」の姿勢を崩さず、人前では常に選手に厳しく接していましたが、この夏は選手と喜びを共有したり、柔らかい表情を見せるシーンが明らかに増えたように思います。困難の中で監督と選手が共に歩みを止めず成長し続けた今年のチームだからこそ、絶望的な状況を覆し甲子園に辿り着けたのではないでしょうか。私はそう考えます。

また、結果的に敗戦の大きな要因になったエラーを献上した藤田和真選手のプレーに、私は不謹慎ながら運命的なものを感じずにはいられませんでした。1995年の社会人野球全国大会の都市対抗野球決勝で、NKK(現JFE西日本)のセカンド宮下正一選手は同じような状況で併殺処理に失敗。サヨナラ負けの決定的なプレーとなりました。試合直後は泣き崩れ項垂れた宮下選手でしたが、「同じ場面がきたら、絶対にゲッツーを取れる選手になりたい。『お前のプレーで負けたなら、仕方ない』と言われる信頼を勝ち取ってやる」、その思いを胸にレギュラーを勝ち取り、厳しい社会人野球の世界で長年プレーを続けてきたといいます。

藤田選手のプレーには「あそこで確実に一塁アウトを確実にとった方が良かったのでは?」、という声も聞かれました。しかし私は、あの攻めてアウトを獲る姿勢を支持します。結果は残念な形になりましたが、あそこでゲッツーが取れていたら流れを変えられたはずです。ゲッツーを取れると信じて攻めた結果なのだから、何も悔いる必要はありません。かつて選手だった宮下監督がそうだったように、藤田選手にもあのプレーを乗り越える人間になってほしい。ファンとしてはそう願わずにはいられません。おそらく、宮下監督もそう願っているのではないでしょうか。

直後の打席では諦めない姿勢を見せてくれた彼ですから、きっと大丈夫でしょう。

 

「無敵」ではなかったチームが繋いだ伝統、悲願は次世代へ

最終的には鹿児島の夏を制したものの、今年の鹿実は決して「無敵の強さ」を誇るチームではありませんでした。個々の選手の力はあったものの、一個上や二個上の世代と比較すると決して注目度や評価は高くなかったように思います。

そんなチームを一段も二段も引き上げる存在だったのが、エース赤嵜智哉投手でした。今年の鹿児島で最も注目を集めた投手は大島の大野稼頭央投手でしたが、私の中で鹿児島ナンバーワン投手は赤嵜投手です。本人は「大野の方がいい投手」と謙遜しますが、彼との直接対決で三度投げ勝ち甲子園でも自責点0で投げぬいた事実は誇っていいものでしょう。甲子園では勝ち投手になれませんでしたが、マウンドで試合を支配する能力は杉内俊哉投手、野田昇吾投手らと比肩しうるものがあります。ライバルの大野投手はプロ志望を表明しましたが、赤嵜投手もいつか同じ舞台で投げ合えるような投手になってくれることでしょう。野田投手の引退によりNPB(日本プロ野球)所属の鹿実OBは途絶えてしまいましたが、彼はその舞台にたどり着ける実力を持った選手だと確信しています。

また、彼の女房役を務めた濵﨑綜馬選手も、見事な成長を成し遂げた選手でした。元々は「打撃はいいけど、守備に不安」と言われていたように、新チーム結成以降は外野手として出場する事が多かった選手です。ですがこの夏のプレーは、とても直前にキャッチャーコンバートされた選手のそれには見えない安心感を与えてくれました。ストライクゾーンを広く使い、ボールになる変化球で振らせる赤嵜投手の持ち味を発揮するためには、捕手の実力が求められます。何度となくワンバウンドを止め、時に要所で間を使う彼の姿は、正真正銘の正捕手でした。彼がこの夏の赤嵜投手の好投を引き出したと言ってもいいでしょう。

その濵﨑選手が固定されるまでマスクを被っていたのが、主将の駒壽選手でした。プレイヤーとしては送球イップスに悩まされ、主将としてはチームが勝てず。とにかく苦悩が続く一年だったと察します。そんな彼が見せた鹿屋中央戦のホームラン時に内野ベースを一周する際の笑顔、甲子園の最終回で打席の選手にエールを送る姿…この夏の一挙一投即に試練を乗り越えてきた主将としての成長を実感しました。彼がこのチームの主将でよかったと、今は心からそう思います。

守っては大ファインプレーで甲子園を魅了し、打っては2安打と気を吐いた筏伸之介選手にも触れなければいけません。今年のチームが赤嵜投手が中心選手だったのは紛れもない事実ですが、彼もまた功労者と言っても過言ではありません。投手陣に故障者が続出する中、多くの試合でマウンドを守ってきたのは筏選手でした。秋の鹿屋中央戦で敗戦投手になったのも彼です。あの試合の悔しさをいつか晴らしてほしいと願ってましたが、この夏は因縁の鹿屋中央戦で勝利し、彼自身も県大会甲子園を通じて攻守共見事な活躍。下位打線ではありましたが、彼の働きがなければ甲子園は難しかったでしょう。中学時代から注目された選手であり地元には全国区の強豪も多い中、井戸田兄弟ら多くの先輩たちの後を追って鹿実を選んでくれたことにはファンとしては感謝の念しかありません。

幾度となくその一振りでチームに勝利をもたらした主砲永井琳選手、強烈な三塁線の当たりを何度も止めつづけた田中大翔選手らのプレーを忘れる事が出来ません。

鹿実という名前を背負い、また鹿児島代表として戦った以上、初戦敗退という結果については批難もあるかもしれません。ですが、彼らは令和の時代に初めて鹿実の名を甲子園に刻み、その伝統のバトンを新たな時代に繋いでくれた立派な学年でした。そのバトンは新チームに引き継がれる事でしょう。甲子園でのプレーを経験し、悔しい思いをした植戸選手と一ノ瀬選手には、ぜひその思いを糧としてチームを牽引して欲しいと願います。そして、ぜひとも再びあの舞台の土を踏んでほしい。鹿実のユニフォームには、やはり甲子園が似合いますから。次こそはあの舞台での勝利を。簡単な事ではないですが、私は引き続きその日を夢見て応援し続けようと思います。

 

さあ、間もなく新人戦。新たな鹿実野球部のスタートが待ち遠しくてたまりません。

 

 

鹿実野球部、激闘を制し20回目の聖地へ!!

第104回全国高校野球選手権 鹿児島大会

決勝

鹿児島実000 002 100=3H7 E2

大  島000 000 002=2H4 E2

【投ー捕】

鹿実:赤嵜ー濵﨑綜

大島:大野ー西田

 

屈辱に耐えた一年、報われる

遅ればせながら、鹿実野球部選手、関係者の皆さん、甲子園出場おめでとうございます。私は決勝戦をリアルタイムで見ることは叶いませんでしたが、見逃し配信で試合の模様を観た際には、結果を知りながらも思わず叫び、涙してしまいました。

決勝の相手は、この一年間常に鹿児島高校野球界をリードしてきた大島。「大島が離島勢として初の夏の甲子園出場を懸けて、甲子園常連の強豪鹿実に挑む」というアングルから語られがちでしたが、実情はその逆。昨年秋以降の公式戦で優勝はおろか上位進出すら果たせなかった鹿実に対し、大島は秋の鹿児島王者であり、九州大会も準優勝。選抜で甲子園を経験した第1シードとして、数々の挑戦者たちを悉く打ち倒してきた紛れもない強者です。その上エース大野投手は今秋のドラフト候補としてプロの注目を浴びる好投手であり、これまで以上の苦戦を強いられる事は予想されました。

ただしエースの存在ならば、鹿実も負けていません。中1日でマウンドに立った赤嵜智哉投手の、なんと頼もしかった事でしょう。スピードこそ大野投手に譲っても、球速以上に力強さを感じさせる速球と抜群のキレを誇る変化球は相変わらず。ここまで投げ抜いてきた疲労は流石に隠せなかったものの、淡々としている中に闘志を燃やす姿はまさにエースそのもの。中盤まで隙を見せない投球で、大島打線を沈黙させます。

その赤嵜投手の力投に真っ先に応えたのは、かつて背番号1を背負った筏伸之助選手でした。赤嵜投手や森山投手が故障で登板できなかった秋春の県大会はいずれも彼がマウンドを守りチームを支えてきました。秋の鹿屋中央戦の屈辱の逆転劇の際もマウンドに立っていたのは彼です。「いつか、この日の悔しさを晴らせる活躍を」と願っていましたが、この決勝の舞台での先制タイムリーはまさにそれ。「悔しさを糧に強くなる鹿実野球」をこれ以上ない形で体現するプレーを目にし、私は思わず込み上げるものを抑えきれませんでした。直後に飛び出した田中大翔選手の一打も見事。決して注目度の高い選手ではありませんが、彼がこの夏ホットコーナーの守備で何度もチームの危機を救ってきたのを私は見てきました。打順こそ9番ですが、意外性の長打力に小技も備える彼がこの打順にいるおかげで、上位から下位まで繋がりのある打線を形成できています。

7回にはこの日当たりのない4番永井琳選手に送らせ1点を取りに行く姿勢を見せれば、続く5番濵﨑綜馬選手がそれに応える一振りで追加点。この大会の彼は率こそ高くはありませんが、ここぞという場面でいい働きを見せてくれました。勝負強さは流石捕手といったところです。

援護をもらった赤嵜投手は、肉刺が潰れるアクシデントもありながらも好投。最終回は名手藤田和真選手のまさかの2失策や、大島の粘りに1点差まで詰め寄られますが、最後は振り切り完投勝利。この一年勝利の味に飢えていたチームが、最後の夏でようやく栄光を掴みとり甲子園への切符を見事勝ち取ってくれました。私は部外者ではありますが、選手や指導者、保護者の方々も本当に苦労を重ね続けた日々だったと想像します。それがこういった形で報われた事が、ファンとして何より嬉しく、そして感動させていただきました。この歓喜を知るからこそ、どれだけ悔しい敗北を味わおうとも私は鹿実ファンを辞める事ができません。

重ねて申し上げますが、本当におめでとうございます。

 

ライバルたちの思いを背負い、借りを返す戦いを

鹿実野球部が4年ぶりに挑む今回の甲子園は、鹿実野球部個別の戦いであると同時に、鹿児島の高校野球を背負った戦いになります。鹿児島県代表を名乗る以上当然ではありますが、ここ数年鹿児島県勢は甲子園の上位進出を果たせていません。直近では昨年夏の樟南と今年の春の大島が初戦で敗れ去っています。コロナ禍での遠征、甲子園練習なしと環境面でも難しい調整を強いられているのも要因ですが、それでも勝敗という優劣がはっきり存在するのが勝負の世界。ファンとしてはもう一度「鹿児島野球ここにあり」を全国でアピールしてほしい思いがあります。私自身96年の鹿実の選抜優勝や98年の杉内投手ノーヒットノーラン鹿実の野球に惹かれましたし、08年の16強に勝ち進んだ戦いから宮下監督に強い関心を抱いたものです。今年の鹿実野球部の戦いを見て野球を始めたり、甲子園を目指す未来の高校球児も生まれるかもしれません。「鹿児島は全国で勝てなくなった」といった声を払拭する戦いを見せて欲しい。そう強く願います。

また、鹿実はこの夏のうちに今春の九州大会優勝校(神村学園)と昨秋準優勝校(大島)を破った事実も忘れてはいけません。単純な1県代表校ではなく、確かな実績と実力を持ち、多くの期待を寄せられていたチームを打ち倒して甲子園を勝ち取ったのです。敗れたチームの選手たちが甲子園で戦う鹿実を純粋に応援できるかは、複雑なところでしょう。本気で甲子園を目指して戦っていた以上、必ず「自分達があの舞台にいたら…」と思うはずです。

それでも私は、鹿実野球部には彼らの甲子園に行きたかったという思いまで背負って戦って欲しいと願います。何より、数々の素晴らしいチームを倒して甲子園に辿り着いたということを、勝利という形で証明して欲しい。それは宮下監督の「恥ずかしい試合はできない」という言葉にも現れていると思います。相手も全国レベルであり、勝利を目指している以上簡単な事ではありません。ただ、今年のチームは困難を乗り越える力がある事をこの夏の戦いで証明してきました。甲子園でもきっと、鹿実らしい泥臭く逞しい戦いぶりを発揮してくれるでしょう。

決勝で鹿実に敗れた大島のエース大野投手は、試合後赤嵜投手と健闘を讃えあい、悔し涙を流しながらも「鹿実に負けたなら納得」と言い残したそうです。彼は少年時代鹿実に憧れ、進路選択の際も鹿実への進学も考えながら、最終的には島の仲間と甲子園を目指す道を選んだといいます。そんな彼を倒してきたのだから、下手な試合はできません。かつての大野少年の憧れに足る戦いが、今年の鹿実には求められています。

奇しくも本日行われた組み合わせ抽選で、鹿実は初戦の相手に明秀日立を引き寄せました。昨年秋の関東大会王者であり、今春選抜の初戦で大島を降した相手でもあります。決して簡単に勝たせてくれるチームではありませんが、これもチームに課せられた試練のような気がしてなりません。数々な試練を乗り越えてきた今年の鹿実野球部。明秀日立という素晴らしいチームに対し「鹿児島県勢」としてリベンジを果たし、久々に全国で名声を轟かす大会にして欲しいです。鹿実ファンとして、鹿児島出身の高校野球ファンとして、鹿実野球部の健闘を心から祈り声援を贈らせていただきます。

 

時は来た。暴れて来い!

 

 

チャレンジャーからいざ王者へ!!鹿実野球部、決勝に挑む。

私はこのブログでは、一貫して鹿実野球部への私なりの言葉でのエールを贈る事を心掛けてきました。

そうは言っても、今このエントリーを制作しているのは決勝戦当日未明。鹿実野球部選手たちは携帯を持っていませんし、関係者や保護者の方々も就寝している事でしょう。今から綴る私の言葉は、本日決勝を戦う選手たちには届きません。故に「今このタイミングでブログを更新する事に何の意味があるのか?」という疑問が何度も頭を過ぎりました。

ですが、私には今このタイミングでなければ記す事の出来ない思い、甲子園という夢舞台が懸かった大一番の前夜に鹿実野球部のファンとして書き記したい言葉を抑えきれませんでした。選手たちには伝わらなくとも、意味などなかろうとも、これから私が思うままのエールをここに綴らせていただこうと思います。

まずはその前に、ここまでの戦いを振り返りっていきましょう。

 

第104回全国高校野球選手権 鹿児島大会

鹿児島実業野球部、今大会戦績

※一回戦は割愛

 

2回戦

鹿児島実100 261=10H12 E0

喜  界000 000=0H2 E1

【投ー捕】

鹿実:森山、久留須、筏ー濵﨑綜

喜界:住友晴哉、住友晴城、竹下ー盛

 

3回戦

国  分012 000 000=3 H8 E0

鹿児島実240 000 000=6 H9 E1

【投ー捕】

国分:竹之内、新町ー福留

鹿実:久留須、森山、松元、赤嵜ー濵﨑綜

 

準々決勝

鹿児島 000 000 000=0 H3 E2

鹿児島実020 112 000=6 H13 E1

【投ー捕】

鹿高:徳、森山、新村ー宇田

鹿実:赤嵜ー濵﨑綜

 

準決勝

鹿児島実000 003 000 04=7H12 E3

鹿屋中央010 000 200 00=3H6 E1

【投ー捕】

鹿実:赤嵜ー濵﨑綜

鹿屋:郡山、愛甲ー永浜

 

改めて見ると、楽なゲームは一試合も無かった事が見て取れます。2回戦こそコールド勝ちではありましたが、序盤は喜界の選手たちの気持ちのこもったプレーに押され、なかなか思ったようなゲーム運びが出来ませんでした。3回戦の国分戦も序盤こそ優位に試合を進めますが、相手バッテリーの老獪な攻めに追加点を奪えない苦しい展開に。ただ、そんな中でも反省点をしっかり洗い出して臨んだ準々決勝の戦いぶりは見事でした。打線の徹底された低く鋭い打球を飛ばす意識と、エース健在を印象付けた赤嵜投手の完封劇。チーム編成に苦心し、今季なかなか拝む事のできなかった快心の勝利でした。

そして、延長11回まで縺れた準決勝。相手は秋の大会で逆転負けを喫した鹿屋中央。あの試合での9回に許したビッグイニングが、何もかもが上手く行かなかった今年を象徴していたように思います。当時と違い怪我人も癒えベストの布陣で臨んだ試合でしたが、やはりそこは試合巧者鹿屋中央。一筋縄では行かせてくれませんでした。敵将が「コンパクトに振り抜く鹿実打線には合わせ難いはず」とマウンドに送り出した左腕郡山投手は、その目論み通り鹿実打線に立ち塞がります。変則気味のフォームと、投球毎に間合いを変えるしたたかさ、キレのある変化球に手を焼けば、守っても4番川井田選手にソロホームランを許す重苦しい序盤となりました。

しかし、劣勢の中でも鹿実の選手たちに焦りの色は見えませんでした。ビハインドでも一気に逆転を狙わず、二死にしても堅実にランナーを進めに行く宮下監督の冷静な采配と、それを忠実に実行する選手たち。それにまず応えたのが、この一年もっとも苦しみを味わった駒壽主将でした。目前で赤嵜選手が申告敬遠された直後の打席で放ったのは、誰もがその結果を確信する程の特大の逆転スリーランホームラン。ダイヤモンドを一周する駒壽主将から溢れた笑顔には感慨深いものがありました。中学時代からの先輩であり、3年間鹿実の正捕手を務め上げた城下拡選手から受け継いだ主将という肩書きと、扇の要というポジション。それは彼にとって想像を絶する重圧だった事でしょう。実際、彼の捕手としてのプレーを見た多くの方の感想も「苦しそうにプレーしてる」といったものでした。送球イップスになったとの話も耳にしています。チームも勝てない日々が続く中、その結果捕手からレフトへコンバートされた事にも悔しさを抱いていたかもしれません。そんな過去を切り裂くような一振りには、ここまでの努力の成果を感じずにはいられませんでした。屈辱から這い上がり、ここぞというところで力を発揮するのが鹿実野球だと私は信じています。駒壽主将もまた、プレーでそれを体現してくれました。それでこそ、鹿実のキャプテンです。

屈辱からの這い上がり…といえば、この選手を忘れてはいけません。この日の決勝打を放った一ノ瀬選手です。ここまで何度も広い守備範囲と、堅実なプレーでチームを救ってきた名手が、この日は3失策。打っても無安打と全く良い所なし。宮下監督はそんな彼を交代させず、最後までグランドに立たせ続けました。まだ下級生であり、よりプレッシャーのかかる準決勝という舞台。気持ちの立て直しなど、普通なら困難なはずです。それでも彼は、最後の最後で監督の信頼に応えました。本人曰く気持ちで打った一打は、彼だけでなくチーム全員の思いが乗った様に私は思います。

次々とシード校や強豪が敗れる今大会において、苦しい場面を何度も跳ね除けての決勝進出。ここで喜んでいられないのは理解していますが、何よりも嬉しいのは勝った上で選手、チームの成長を実感できる事です。あれだけの逆境の中、よくぞここまで辿りついてくれました。ファンとしては、これ以上の喜びはありません。

 

……とは言いつつも、ここまできたら欲が出てしまうのもまた否定できません。来る決勝戦。是非とも勝って甲子園行きを決めてほしい。私はファンとして、まだまだこのチームの戦いを見続ていたいです。そして、甲子園という晴れ舞台で、鹿実を再び轟かせて欲しい。4年前金農扇風に沸く100回記念大会直後、私は鹿実があの大会で吉田輝星投手擁する金足農相手に初戦敗退を喫した悔しさを抱えたまま、このブログを立ち上げました。鹿実野球部は甲子園という舞台に忘れ物をしたままなのです。是非とも先輩たちの無念を晴らす夏にして欲しい。そう強く願います。

決勝の相手は、選抜出場校大島。名実ともに大会ナンバーワンの実力を誇る大野稼頭央投手を擁するこのチームは、間違いなく今までで一番の強敵となるでしょう。スタンドの空気も、おそらく大島の夏史上初の偉業を期待し後押しするはずです。

それでも、この夏にかける思いだけは鹿実も譲れません。

 

最高の舞台で、最高の相手と、最高の勝負を。そして、願わくば最高の結果を。

 

私は試合を見る事は叶いませんが、本日も心から鹿実野球部の勝利を祈り、応援させていただきます。

 

 

あと一つ、全員で勝ち取れ!!!