鹿実野球部、激闘を制し20回目の聖地へ!!

第104回全国高校野球選手権 鹿児島大会

決勝

鹿児島実000 002 100=3H7 E2

大  島000 000 002=2H4 E2

【投ー捕】

鹿実:赤嵜ー濵﨑綜

大島:大野ー西田

 

屈辱に耐えた一年、報われる

遅ればせながら、鹿実野球部選手、関係者の皆さん、甲子園出場おめでとうございます。私は決勝戦をリアルタイムで見ることは叶いませんでしたが、見逃し配信で試合の模様を観た際には、結果を知りながらも思わず叫び、涙してしまいました。

決勝の相手は、この一年間常に鹿児島高校野球界をリードしてきた大島。「大島が離島勢として初の夏の甲子園出場を懸けて、甲子園常連の強豪鹿実に挑む」というアングルから語られがちでしたが、実情はその逆。昨年秋以降の公式戦で優勝はおろか上位進出すら果たせなかった鹿実に対し、大島は秋の鹿児島王者であり、九州大会も準優勝。選抜で甲子園を経験した第1シードとして、数々の挑戦者たちを悉く打ち倒してきた紛れもない強者です。その上エース大野投手は今秋のドラフト候補としてプロの注目を浴びる好投手であり、これまで以上の苦戦を強いられる事は予想されました。

ただしエースの存在ならば、鹿実も負けていません。中1日でマウンドに立った赤嵜智哉投手の、なんと頼もしかった事でしょう。スピードこそ大野投手に譲っても、球速以上に力強さを感じさせる速球と抜群のキレを誇る変化球は相変わらず。ここまで投げ抜いてきた疲労は流石に隠せなかったものの、淡々としている中に闘志を燃やす姿はまさにエースそのもの。中盤まで隙を見せない投球で、大島打線を沈黙させます。

その赤嵜投手の力投に真っ先に応えたのは、かつて背番号1を背負った筏伸之助選手でした。赤嵜投手や森山投手が故障で登板できなかった秋春の県大会はいずれも彼がマウンドを守りチームを支えてきました。秋の鹿屋中央戦の屈辱の逆転劇の際もマウンドに立っていたのは彼です。「いつか、この日の悔しさを晴らせる活躍を」と願っていましたが、この決勝の舞台での先制タイムリーはまさにそれ。「悔しさを糧に強くなる鹿実野球」をこれ以上ない形で体現するプレーを目にし、私は思わず込み上げるものを抑えきれませんでした。直後に飛び出した田中大翔選手の一打も見事。決して注目度の高い選手ではありませんが、彼がこの夏ホットコーナーの守備で何度もチームの危機を救ってきたのを私は見てきました。打順こそ9番ですが、意外性の長打力に小技も備える彼がこの打順にいるおかげで、上位から下位まで繋がりのある打線を形成できています。

7回にはこの日当たりのない4番永井琳選手に送らせ1点を取りに行く姿勢を見せれば、続く5番濵﨑綜馬選手がそれに応える一振りで追加点。この大会の彼は率こそ高くはありませんが、ここぞという場面でいい働きを見せてくれました。勝負強さは流石捕手といったところです。

援護をもらった赤嵜投手は、肉刺が潰れるアクシデントもありながらも好投。最終回は名手藤田和真選手のまさかの2失策や、大島の粘りに1点差まで詰め寄られますが、最後は振り切り完投勝利。この一年勝利の味に飢えていたチームが、最後の夏でようやく栄光を掴みとり甲子園への切符を見事勝ち取ってくれました。私は部外者ではありますが、選手や指導者、保護者の方々も本当に苦労を重ね続けた日々だったと想像します。それがこういった形で報われた事が、ファンとして何より嬉しく、そして感動させていただきました。この歓喜を知るからこそ、どれだけ悔しい敗北を味わおうとも私は鹿実ファンを辞める事ができません。

重ねて申し上げますが、本当におめでとうございます。

 

ライバルたちの思いを背負い、借りを返す戦いを

鹿実野球部が4年ぶりに挑む今回の甲子園は、鹿実野球部個別の戦いであると同時に、鹿児島の高校野球を背負った戦いになります。鹿児島県代表を名乗る以上当然ではありますが、ここ数年鹿児島県勢は甲子園の上位進出を果たせていません。直近では昨年夏の樟南と今年の春の大島が初戦で敗れ去っています。コロナ禍での遠征、甲子園練習なしと環境面でも難しい調整を強いられているのも要因ですが、それでも勝敗という優劣がはっきり存在するのが勝負の世界。ファンとしてはもう一度「鹿児島野球ここにあり」を全国でアピールしてほしい思いがあります。私自身96年の鹿実の選抜優勝や98年の杉内投手ノーヒットノーラン鹿実の野球に惹かれましたし、08年の16強に勝ち進んだ戦いから宮下監督に強い関心を抱いたものです。今年の鹿実野球部の戦いを見て野球を始めたり、甲子園を目指す未来の高校球児も生まれるかもしれません。「鹿児島は全国で勝てなくなった」といった声を払拭する戦いを見せて欲しい。そう強く願います。

また、鹿実はこの夏のうちに今春の九州大会優勝校(神村学園)と昨秋準優勝校(大島)を破った事実も忘れてはいけません。単純な1県代表校ではなく、確かな実績と実力を持ち、多くの期待を寄せられていたチームを打ち倒して甲子園を勝ち取ったのです。敗れたチームの選手たちが甲子園で戦う鹿実を純粋に応援できるかは、複雑なところでしょう。本気で甲子園を目指して戦っていた以上、必ず「自分達があの舞台にいたら…」と思うはずです。

それでも私は、鹿実野球部には彼らの甲子園に行きたかったという思いまで背負って戦って欲しいと願います。何より、数々の素晴らしいチームを倒して甲子園に辿り着いたということを、勝利という形で証明して欲しい。それは宮下監督の「恥ずかしい試合はできない」という言葉にも現れていると思います。相手も全国レベルであり、勝利を目指している以上簡単な事ではありません。ただ、今年のチームは困難を乗り越える力がある事をこの夏の戦いで証明してきました。甲子園でもきっと、鹿実らしい泥臭く逞しい戦いぶりを発揮してくれるでしょう。

決勝で鹿実に敗れた大島のエース大野投手は、試合後赤嵜投手と健闘を讃えあい、悔し涙を流しながらも「鹿実に負けたなら納得」と言い残したそうです。彼は少年時代鹿実に憧れ、進路選択の際も鹿実への進学も考えながら、最終的には島の仲間と甲子園を目指す道を選んだといいます。そんな彼を倒してきたのだから、下手な試合はできません。かつての大野少年の憧れに足る戦いが、今年の鹿実には求められています。

奇しくも本日行われた組み合わせ抽選で、鹿実は初戦の相手に明秀日立を引き寄せました。昨年秋の関東大会王者であり、今春選抜の初戦で大島を降した相手でもあります。決して簡単に勝たせてくれるチームではありませんが、これもチームに課せられた試練のような気がしてなりません。数々な試練を乗り越えてきた今年の鹿実野球部。明秀日立という素晴らしいチームに対し「鹿児島県勢」としてリベンジを果たし、久々に全国で名声を轟かす大会にして欲しいです。鹿実ファンとして、鹿児島出身の高校野球ファンとして、鹿実野球部の健闘を心から祈り声援を贈らせていただきます。

 

時は来た。暴れて来い!