決めた、千両役者城下拡!!鹿実・新たな姿で2季ぶりの王者に

土壇場からの逆転…痺れました。優勝おめでとうございます!!

 

第148回九州高校野球鹿児島大会

決勝

鹿児島実000 300 004=7

鹿屋中央010 110 100=4

鹿実:大村、筏

中央:折尾、峯山

 

両校とも九州大会出場を決めており、お互い準決勝から先発投手を変えてきた一戦。鹿実先発大村投手は今大会安定感に欠ける投球が目立ったものの、この試合に関してはまずまずの立ち上がり。一方鹿屋中央先発左腕の折尾投手も、左右低めに曲がり落ちる変化球で鹿実打線を翻弄。それぞれエースナンバーを背負った経験もある三年生投手の好投で試合の幕が上がりました。

試合が動いたのは2回裏。大村投手は鹿屋中央先頭の4番金澤選手にヒットを許すと、続く打者に送りバントを決められ先制のピンチを招きます。そして、ここで鹿実バックに痛恨のミス。この日ショートで先発出場の駒壽選手がショートゴロの送球を逸らす間に鹿屋中央が先制。内野守備に不安を残す鹿実が、またも失策絡みの失点を喫してしまいます。

鹿実は4回に反撃開始。先頭城下選手のヒットから、犠打野選、四球で満塁とすると、6番赤嵜選手のセカンドゴロの間に三塁走者生還で同点。さらに2回裏に送球エラーの駒壽選手が名誉挽回の2点タイムリーを放ち、これで鹿実が逆転に成功します。鹿屋中央もその裏、さらには5回といずれも先頭打者の出塁を得点に結びつけ、試合は3−3。両チーム一進一退のまま、後半戦に突入します。

7回表、鹿実は1アウトからの3連打で満塁のチャンスを作りますが、ここで主砲城下選手がまさかのホームダブルプレー。決定機を逃した鹿実はその裏の守りで駒壽選手、福崎選手の二遊間がそれぞれエラーを喫してしまい勝ち越しを許します。流れが鹿屋中央に傾く中、鹿実はここでマウンドを二番手筏投手にスイッチ。後続を抑えなんとか最少失点で切り抜けます。

8回は4番打者からの攻撃も三者凡退に抑えられ後が無くなった鹿実は9回の攻撃、先頭に代打木村選手を送るも三振で1アウト。しかし、ドラマはここからでした。この日守備で2度の失点に繋がるミスをしてきた駒壽選手が意地のヒット。好リリーフを見せた筏選手も四球を選び望みを繋ぎます。井戸田選手は打ち取られツーアウトとなりますが、打席には今大会その勝負強い打撃で何度もチームを救ってきた平石選手。3ボール0ストライクから積極的に叩いた打球はサードゴロ、万事休すかと思われた矢先鹿屋中央サード馬庭選手の送球が高く逸れ一塁セーフ。土壇場で鹿実が試合を振り出しに戻します。この場面にバッターは3番キャプテン城下選手。前の打席は痛恨の併殺で相手チームに流れを明け渡すきっかけを作ってしまいましたが、この場面ではやはり違いました。三遊間を見事に破る技ありのタイムリー。これを今度はレフトが逸らしバッターランナー城下選手まで生還。7−4と一気に形勢をひっくり返します。

その裏を筏投手が三者凡退に抑え試合終了。鹿実が執念の逆転劇で2019年秋以来の鹿児島王者に輝きました。

 

「理想の鹿実野球」と「新しい鹿実野球」の両立を目指して

4失策、バントミス、点をとった直後の失点、チャンスを作りながら押し切れない展開……こう書くと完全に負けた試合のようです。実際宮下監督も「負け試合」とコメントしており、内容だけを見れば決して褒められた試合ではありません。しかしそんな展開でも勝つことができ、県の頂点に立てた。ここに関しては自信を深めていいと思います。もちろん無失策試合を作れなかった守備、打ち込まれた投手陣、僅差の試合を突き放すためのチームプレーなど、これから身につけなければならない課題は山積みです。それでも私は、劣勢でも諦めず勝利を信じて戦った選手たちの姿勢に心を打たれました。これは昨年秋時点でこのチームに欠けていたものではないでしょうか。

今だからあえてこう記しますが、秋の大会の城西戦は相手チーム以前に自分たちに負けた試合だと私は見ています。自分たちの目指す野球がなかなかできないで苦しむうちに試合が終わってしまった、そんな印象です。今年のチームにかかわらず、鹿実は過去にもそういった負け方をする事は少なくありませんでした。近年の鹿実野球のスタイルといえば、久保総監督から受け継いできた質実剛健な野球をベースに、宮下監督が自身の社会人野球経験を基に取り入れてきた組織的な野球。「理想とする目指すべき野球」があるからこそ、前哨戦で結果が出なくても夏場には仕上げてくる。伝統校たる所以はそこにあります。

一方で、そこばかり追い求めてはいられないのもまた認めなければなりません。しっかり確立されたスタイルがあるという事は、裏を返せばそのスタイルを崩されたら脆いという事です。ここが鹿実野球の積年課題でもありました。そして、今大会はそうではない野球で勝つことができた。ここに鹿実野球の大きな前身を私は見出しています。

今大会の勝ち方は、悪く言えば不恰好で決してスマートではありません。しかし、実は随所に「鹿実らしい泥臭さ」も生きている。このなんとも言えないバランスが、ファンとしては魅力的でついつい応援したくなってしまうのです。このチームなら、何か大きいことをやってくれるのではないか。そんな期待感を抱かずにはいられません。

無論、このままの野球で夏も勝てるかと言えば、そんなに甘くはないでしょう。鹿実の弱点は県内各校に完全に知れ渡りましたから、次戦う時ライバルたちはそこを突いてきます。今大会得たものは大事にしつつも、夏までに伝統の鹿実野球をきっちり実践できるように練習に取り組んで行って欲しいですね。

 

タダで終わらない男たち、真のレギュラーを目指して

この試合の先発を任された大村投手は、元々一年生の頃から世代のエースとして期待されていた投手です。しかし、新チーム以降の投球は精彩を欠く事が多く、気づけば赤嵜投手や筏投手といった下級生に大事な試合のマウンドを譲ることが増えてきました。九州大会がかかった準決勝の先発も赤嵜投手。自身は今大会も打ち込まれることが多く、自信が打ち砕かれそうになった事もあったかもしれません。そんな中託された決勝のマウンドで、大村投手は鹿屋中央の強力打線を相手に大会ベストピッチを見せてくれました。結果は4失点ながらも、自責点は2。7回途中までイニングを稼ぎ、先発として十分試合を作ったと言えるでしょう。確かに今年の鹿実には2年生に良い投手が多いですが、やはり夏は三年生の力、三年生の経験が必要な試合が絶対に出てきます。何度も主張していますが、私は彼の投手としての力はこんなものではないと見ています。九州大会では、この試合以上の好投を期待しています。

そしてもう1人。秋からショートのレギュラーを期待されながら、今大会背番号6を剥奪された駒壽選手の活躍も忘れてはいけません。大会通じてショートのポジションには同学年の藤田選手が就く事が増えてきましたが、彼も元々はセカンドの選手。内野の守備は今大会最後まで落ち着きませんでした。決勝でスタメン復帰した駒壽選手も1試合2つのエラーを記録してしまいましたが、一方でミスをした直後の打席でしっかり安打を放っています。そのいずれも得点に繋がるあたり、ある意味この試合を象徴する選手は彼だったと言えます。ミスをしても打席に引き摺らない精神的なタフさは買えます。こういった選手は負けたら終わりのトーナメントでは非常に頼りになるはず。だからこそ、私は彼に実力でレギュラーを取り返して欲しい。守りの要であるショートが固定されなければ、チームは揺らぎます。元々攻守共に高い能力を持っているだけに、あとは経験と実戦を想定した練習をどれだけ積むことができるか。まだまだ正遊撃手とは言えません。是非とも夏までに指導者、チームメイトの信頼を勝ち取って欲しいです。

 

悔しさを知る主将、いざリベンジの舞台へ

この試合を決めたのは、やはりチームの絶対的中心である城下選手でした。主力打者であり、守りの要である捕手、そしてチームの主将。彼無くして今年の鹿実は成り立ちません。満塁のチャンスを潰す併殺を喫した次の打席で勝ち越しタイムリーを放つあたり、やはりモノが違うと言うほかありません。この試合も何度もマウンドに足を運び、投手を盛り立てていました。

中学時代はU15日本代表を経験し、各校争奪戦になった逸材。鹿実入学直後いきなり九州大会で先発マスクを任されるなど、彼の経歴は非常に華やかです。しかし、彼自身はここまでの高校野球生活が決して満足いくモノだとは思っていないはず。前述した1年時九州大会では緊張もあり力を発揮できず途中交代で、チームもコールド負け。続くNHK旗では少年野球時代からのライバル樟南西田投手を打ち崩せず敗退し、夏はベスト8に届かず。選抜を目指して戦った秋は県を制覇しますが、九州大会は初戦敗退。昨年の公式戦はいずれも鹿児島城西という同じ相手に連敗を喫するなど、ここまでは彼にとって不本意な結果が続いています。U15を共に戦った選手には既に甲子園を経験した選手もいますし、同じ北薩地区出身で馴染みのある明豊太田虎太郎投手もこの春選抜で決勝のマウンドに立っています。身近な存在の躍進は嬉しさもあるでしょうが、やはり悔しい気持ちも湧いてくるのではないでしょうか。

今度は城下選手の番です。私は彼が鹿児島県内や、高校野球で終わる選手だとは思ってません。間違いなくその先を見据えるべき逸材です。だから、今度の九州大会は城下拡の名前を売り込む大会にして欲しい。キャプテンでもある彼は立場上個人プレーに走るわけには行かないでしょうが、彼の名が轟くような活躍ができれば必然と鹿実の勝利に繋がるはずです。彼自身九州大会には良い思い出はないでしょうが、その過去を振り払う大きな活躍を期待してます。

 

時は来た。さあ魅せろ、城下拡!!