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気がつけばもう7月。甲子園出場がかかる大会であり、3年生にとって最後の大会でもある夏の選手権鹿児島大会がいよいよ開幕します。

春の鹿児島を制覇し今大会でも優勝候補の一角に名を連ねる今年の鹿実ですが、一方で鹿児島城西に2度の敗北を経験する悔しい思いも味わってきた今年のチーム。当然夏は打倒城西………と言いたいところですが、トーナメントである以上敵は城西だけではありません。負けたら終わりの夏の大会は、目の前で牙を剥いてくる対戦チーム全てがライバルとなってきます。鹿実の最大目標は、この夏を6連勝して甲子園に乗り込む事。そのためには一戦必勝で目の前の対戦チームに食らい付き、劣勢に立たされても最後まで闘志を絶やさない姿勢を持ち続ける事が重要です。ここ最近の取材映像から彼らナインの表情、言葉一つ一つを見ても、その覚悟は決まっているように感じます。第一シードこそ逃しましたが、チャレンジャーであればこそ強さを発揮するのが鹿実野球です。今回はのエントリーではそんな今年の鹿実野球部のチームの特徴とともに、私が考える甲子園を目指す上での課題を述べていこうと思います。

 

【バッテリー】“弱点“から“強み“へ、主将のリードが鍵を握る!

新チーム結成当初は明らかに駒が不足していたのが投手陣でした。市内新人戦では優勝こそ果たしたものの、本番の秋県大会では城西相手に大敗。背番号1を背負いながら先発を任されずリリーフでの登板となった大村投手は、当時速球も走らない上に制球にも苦しむと言う散々な出来だった事を記憶しています。しかし、一冬超えてエースナンバーを失った彼は見違えるような姿を披露してくれました。120キロ台だった球速は130台中盤をコンスタントに記録するようになり、ストライクゾーンで積極的に攻める投球スタイルに変わってきました。140キロ超が当たり前の現代高校野球では突出した数字ではありませんが、彼独特の躍動感あるフォームから強い腕の振りで放たれるボールは球速以上の威力を感じさせます。その速球を意識させつつ小さく曲がるスライダーとのコンビネーションがうまく使えている時は、そう簡単に点を与える事はないでしょう。好投手が多い今年の鹿児島では決して目立った存在ではありませんが、実戦力に関しては大村投手も県内有数のうちの1人である事は間違いありません。課題は絶対的な決め球を持つタイプではないため、どうしてもピンチを背負いながらの投球が増えてしまう事。そのためベンチは終盤での継投も常に視野に入れる必要が出てきますが、個人的にはこの夏はエースの誇りにかけて最後まで粘り切る投球を見せて欲しい。この一年間で大きく飛躍した彼だからこそ、さらにもう一段上の「自分の投球でチームを勝ちに導く」という真のエースとしての姿を期待したいです。

一方で、彼の成長を語る上で忘れてはいけないのが2年生投手達の台頭です。NHK旗まで1番を背負った赤嵜投手は、鹿実の左腕らしくキレのある速球とボールゾーンへ逃げる変化球で淡々と打ち取る投球が持ち味。どちらかといえば技巧派ながら、球速も現時点で130キロ後半を記録するなど力強さもあります。春の県大会はその投球で何度もチームの窮地を救ってくれました。先発はもちろんの事、リリーフとしても流れを変える投球ができる貴重な戦力です。

さらに、サイド気味の左腕から癖のある球を放る筏投手や、右の本格派の森山投手、最速148キロと言われる井上投手なども控え、秋からすると比較にならないほど厚みが増してきました。戦力が底上げされたからこそ、3年生の大村投手にも相乗効果が生まれたのではないでしょうか。この投手陣ならば、県内の上位チームとも対等に渡り合えると思います。

だからこそ重要なのは、彼らをリードするキャプテン城下捕手の働きです。言うまでもなく実力、経験ともに県内屈指の存在である彼ですが、上位クラスのチームは夏までに彼の配球の分析も済ませてくる事でしょう。そういった意味で夏の大会は今までとは違うやりづらさを感じる事も多いでしょうが、チームの柱として揺るぐ事なく投手陣を引っ張っていってもらいたいです。これまで何度もチームを勝利に導いてきた彼ですから、夏も問題ないでしょう。きっと、彼ならばやってくれるはずです。

 

【攻撃】やや下降気味も看板は強打、切れ目のない攻撃を!

今年のチームの特徴はなんといっても強打。特に優勝した春は圧巻の6試合53得点を叩き出しました。打線の中心はやはり城下選手ですが、前後を打つ選手たちの打力も決して引けをとるものではありません。巧みなバットコントロールに俊足を兼ね備える井戸田選手が1番に座り、強打と巧打を使い分ける平石選手が恐怖の2番打者として君臨。3番の城下選手の後ろにはパワーが魅力の板敷選手、秋にホームランを連発した小倉選手、打者としても高いセンスを発揮する赤嵜選手らが名を連ねます。

ただ、九州大会以降はその看板の打線がやや湿り気味に。他チームが実力をつけてきた事に加え、鹿実に対する研究も進んできたのではないでしょうか。当然夏はライバル校も今まで以上に仕上げてきますし、鹿実に対するマークも今まで以上に厳しいものになるでしょう。大会に入ればなかなか点の入らない重苦しい展開の試合も増えてくる事が予想されます。そこで重要になってくるのは、比較的マークの薄い下位打線でいかにチャンスを作り得点を挙げていけるか、と言う事です。前回夏優勝した年の決勝戦も先制は下位打線の活躍でしたし、あの年は7番に原口選手という主軸クラスの選手を配置していました。切れ目のない攻撃をする事が相手守備への最大のプレッシャーとなりますから、下位打線の働きは今まで以上に求められてきます。守備面での働きが期待されて起用される事が多い福崎選手、藤田選手や下山選手、守備面での不安からベンチスタートが多くなってきた駒壽選手らにも打席での活躍を期待してます。

また、夏の独特の雰囲気や相手バッテリーの厳しい攻めに苦しむ試合展開になった時に重要なのは、自分たちの強みを見失う事なく戦い続ける事です。鹿実は決してホームランを量産するようなチームではありませんが、打者全員が低く鋭い打球を打てるよう意識して普段から練習に取り組んでいます。一人一人がこれまでの練習で培った自分のスイングを信じて打席に立つ事ができれば、相手にとって最大のプレッシャーになるでしょう。ヒットやホームランの多さは関係ありません。最終的に相手チームより多くの得点を積み重ねる事ができれば勝てるのが野球というスポーツ。求められるのは、鹿実らしい「詰めの野球、詰めの攻撃」です。

 

【守備】当初の課題も徐々に改善、勝利へアウトを積み重ねろ!

鹿実が最も練習時間を割くのは恐らく守備ではないでしょうか。「桜島打線」が注目された時代でも久保総監督は守りの野球を身上としてましたし、社会人野球で好守の二塁手として鳴らした宮下監督も守備に強い拘りを持っています。しかし、この一年で最も苦しんだのがディフェンス面。先述した投手もそうですが、優勝した春の大会でも鹿実らしからぬ守備のミスを内野陣が連発。最後は打力でなんとか押し切りましたが、夏は同じ野球が通用するほど甘くありません。一つのミスが致命傷となり敗れるチームは何度も見てきましたし、鹿実もそういった苦い試合を過去に経験しています。

それでも、九州大会以降は大幅な内野陣のコンバートを実施した結果、守備の拙いプレーは目に見えて減りつつあります。特に、肝腎要のショートのポジションに平石選手がハマった事は非常に大きいです。中学時代は捕手で、鹿実入学後はサードが定位置だった平石選手ですが、彼の野球センスの高さはチームにとって欠かせない貴重な戦力です。三遊間を組む下山選手も非常に軽快な動きを見せ、送球も安定感を感じさせます。ここが固まった事で、NHK旗樟南戦のような接戦も拾う事ができるようになりました。

ただ、レギュラーを奪われた選手たちにもこのまま終わってほしくはありません。2年生ながらスタメンを経験している駒壽選手や藤田選手には、まだまだ食らい付いていって欲しいところ。背番号関係なく全員が試合に出る準備ができているチームこそが本当に強いチームです。

そして、試合に出る選手たちにはミスを恐れないアグレッシブなプレーを期待してます。守備でも攻める姿勢を見せて、攻撃へのリズムを生み出すのが鹿実野球だと私は考えます。これまで積み重ねてきた練習を信じて、自身を持ってプレーしてください。あれだけ厳しい練習を乗り越えたのですから、もう怖いものはないはずです。

 

精鋭たちの意地

先日放送されたKKBの目指せ甲子園では、今年も鹿実野球部の選手たちは男らしく逞しい姿を披露してくれました。自由でのびのびとした教育が歓迎される現代で鹿実のようなスタイルは「時代錯誤だ」と批判される事は少なくありません。それでも私は、古臭く漢臭いと言われようが、この昔と変わらない鹿実野球部が大好きです。「勝って我々の野球を正解にしよう」という宮下監督の姿に憧れを抱いてしまうのです。

今年の三年生は例年と比べ人数は少ないですが、鹿実野球部の伝統を背負う心意気は過去の先輩たちに負けていません。

主将の城下選手はインタビューでご両親と同級生への感謝を口にし、井戸田選手は同じ鹿実のユニフォームに背を通した先輩でもある2人のお兄さんたちの分まで甲子園に行くと意気込みを表明してました。彼ら井戸田兄弟や筏選手の出身チームである愛知東海中央ボーイズを立ち上げたのは、宮下監督とともに鹿実を甲子園春夏ベスト8に導き、3年時には主将としてそれを上回るベスト4に勝ち上がった竹脇賢二さんです。こういった時代を超えた繋がりがあるのも、鹿実の魅力だと思います。伝統といいますが、それを守っていくのは簡単ではありません。時代が変われば社会の価値観も変わります。もちろん時代に合わせないといけない事もありますが、一方で鹿実野球部には変わらぬ良さを受け継いでいって欲しい。それがファンとしての願いです。そのためには結果を出し、再び鹿実の名を歴史に刻む事が一番です。「正解にする」という言葉の真意はそこにあります。

実力拮抗、群雄割拠の鹿児島を勝ち抜くのは容易ではありません。勝負事ですから結果はどうなるかはわかりませんが、ファンとしては今年も彼らの勝利を祈り、声援を贈ろうと思います。

 

 

流してきた涙と汗は嘘をつかない。自分を、仲間を信じて戦おう。