鹿実、惜しくも4強逃す……九州地区高校野球

遅くなってしまいました。まずはいつものように試合の振り返りから行おうと思いますが、私が観戦ができなかった一回戦は割愛させていただきます。

 

第148回九州地区高校野球

◆一回戦

藤  蔭000 030 000=3 H10 E2

鹿児島実100 302 10x=7 H12 E0

藤蔭:田中、三和田、横尾、松本、川上ー高倉

鹿実:赤嵜ー板敷

 

◆二回戦

鹿児島実000 000 002=2 H2 E1

興  南000 000 103x=4H11E3

鹿実:大村、森山、赤嵜ー板敷

興南:大山北、山城、生盛ー山川

 

※初戦は地元大分勢の藤蔭を快勝で降し、続く二回戦では沖縄の強豪・興南との対戦に。扇の要で主砲、キャプテンを務める大黒柱・城下選手を故障で欠く事になった鹿実は、捕手に板敷選手、県大会で拙守が目立ったショートに平石選手を据える新たな布陣で試合に臨みます。先発マウンドを任された大村投手は、初回から得意の速球を軸に力で押す快調な投球。高めや内角を強気で突く板敷捕手の好リードやバックの好守にも支えられ、ピンチを作りながらも要所要所で踏ん張る粘りの投球で0を積み重ねていきます。一方県大会に続き初戦は好調だった打線が、この試合では完全に沈黙。興南の左右の好投手の継投の前に僅か2安打と抑え込まれてしまいます。

重苦しい展開まま試合は終盤7回。ここまで好投してきた大村投手は徐々にタイミングが合ってきた興南打線に捕まります。先頭打者に安打を許しその後二死ながら三塁まで走者を進められると、興南2番の一年生仲程選手に三遊間を痛烈に破るタイムリーを浴び、均衡を破る1点が興南に。続く8回裏もピンチを作ると、鹿実はここで初戦完投した赤嵜投手にスイッチ。今大会からエースナンバーを背負う左腕は期待に応え併殺に仕留め、なんとか9回の攻撃に望みを繋ぎます。

最終回の鹿実の攻撃はその赤嵜選手が四球を選ぶと、ここで相手守備にミスが連発。送球エラーと二連続暴投という形でまさかの逆転。

しかし、この試合初めてリードして臨んだ9回裏の守りに落とし穴が待っていました。赤嵜投手はランナーを許しながら勝利まであと1アウトまで漕ぎつけるも代打宮國選手に執念の四球を選ばれると、その直後に4番野田選手が初球をフルスイング。打球はレフトポールへ直撃するサヨナラスリーランホームラン。興南にとっては劇的な幕切れ、鹿実にとっては痛恨の敗戦となりました。

 

あと一歩のところで無念にも九州ベスト4を逃した鹿実ですが、初戦の勝利は実に九州大会4年ぶりの1勝。最多優勝回数を誇る古豪がそれに満足してはいけませんが、一方で直近出場3回はいずれも初戦敗退と結果を出せていなかったのも事実。その鬼門と言える舞台で久々に掴んだ勝利は、鹿実野球部をさらに前進させるものになるはずです。

 

主将の不在をチームでカバー

まず触れないといけないのが、城下主将の欠場についてです。前のエントリーで私は城下選手の九州大会での躍進への期待を綴りましたが、それが叶わなかったのはとても無念でなりません。ただそれ以上に、私は故障を押して県大会に出続けた彼のチームへの献身に心を打たれました。決勝の鹿屋中央戦で打った勝ち越しタイムリーも、激しい痛みに耐えて振り切ったものでしょう。あの時点で九州行きは決まっていましたし、身体の事を考えれば欠場すべきだったかもしれない。しかし主将である城下選手は、結果が出ずに苦しみ続けたこのチームが自信をつけるには大きな結果が必要だと誰よりも強く感じていたのではないでしょうか。だから無理をしてでも試合に出続け、そして見事結果で応えチームを勝利に導いた。私は鹿実ファンとして、彼に対して敬意を抱かずにはいられません。

そんな主将の姿を見て、チームもきっと燃えるものがあったのではないでしょうか。

実際選手たちは、キャプテン不在を全員でよく補ってくれたと思います。私は城下選手の欠場を耳にした時「初戦突破も厳しいのでは」危惧しましたが、いい意味で期待を裏切る戦いぶりを見せてくれました。初戦は地元大分の甲子園経験校・藤蔭に快勝し、二回戦は興南に敗れはしたものの、あと一歩のところまで追い詰める接戦。代役でマスクを被った板敷選手は即席捕手とは思えない強気のリードで投手陣を引っ張りましたし、そのリードに応えた赤嵜投手、大村投手の投球も素晴らしいものでした。県大会では崩壊した内野守備も、守備位置を大幅に入れ替えた事が功を奏し2試合通してエラー1と安定。1年生時以来ショートに入った平石選手と下山選手の三遊間は安心して見る事ができましたし、県大会でいくつもエラーを献上した藤田選手も本来のセカンドに移った事で非常に良い動きを見せていました。守備に関しては、格段の進歩を遂げたといっていいでしょう。

もちろん反省点はいくつもあります。

興南戦は僅か2安打に抑え込まれ、得点も相手のワイルドピッチによるもの。相手投手に力があったとはいえ、打線の力で勝ち上がったチームとしては寂しいですし、先頭打者を塁に出しながらバント失敗や走塁ミスで自らチャンスを潰すシーンも非常に目立ちました。

とはいえ、何度も言いますがまだまだこのチームは発展途上。思えば秋の城西戦での完敗から始まったこのチーム。当時は大村投手も130キロに届かない球速でフォームにも現在ほどの躍動感もありませんでしたし、平石選手も決して今ほど勝負強く嫌らしいバッターではありませんでした。チームも選手も確実に進歩してきています。当然夏の甲子園を勝ち取るにはまだまだ力をつけないといけませんが、この大会で得たものは決して小さくはないはず。手にした手応えと、新たに見つかった課題。これを糧にチームはさらに成長していく事でしょう。私はそう信じています。

 

鹿実の魂

実は幸運なことに、私は興南戦を現地で観戦することができました。昨年は新型コロナ禍により叶わなかった現地での観戦。甲子園を賭けて戦う事が出来なかった今年の卒業生たちの無念からすると比べる事も烏滸がましい事ですが、ファンとして長年追いかけてきた鹿実の野球を見られないのは私としても非常に寂しい気持ちでした。

そして、久々にその目で拝む事ができた鹿実ナインは、やはり私の目にはとても強く輝いて見えました。

 

キビキビとして、かつ迫力のあるシートノック。

試合開始挨拶での一糸乱れない揃ったお辞儀。

選手一人一人がプレー中に放つ煽れんばかりの気迫。

全員で束になり状況を打開して行こうという、チームで統一された意思。

 

ーーー今年のチームにも、「鹿実の魂」はしっかりと宿っています。試合に負けた事の悔しさはもちろんありますが、私はそれ以上に鹿実野球部が今年も変わらぬ魅力を放っていた事に感動してしまいました。これがあるから、ファンを辞める事が出来ません。

時にその練習方法やチーム作りが時代錯誤だと非難されようとも、鹿実は毎年我々ファンの心を揺さぶる野球を見せてくれます。誰がなんと言おうが、これは間違いなく素晴らしいものです。

この大好きな鹿実野球が、再び甲子園で躍動する瞬間を見たい。現地で観戦した事で、私の願望はより強いものになりました。

無論、実力拮抗、群雄割拠の今年の鹿児島を勝ち抜き、甲子園行きを勝ち取るのは容易な事ではありません。春を制した事により、他校からの警戒も厳しくなるでしょう。

さらに、周囲の期待、その反動から寄せられる批判、強豪故寄せられる心ないバッシング、いち学生の部活動の枠には収まらない雑音がこれから皆さんを襲うでしょう。ですが、そんなものに負けないような逞しさが皆さんには備わっていると私は確信しています。

 

“太々しく、大胆に“

 

まさにこの言葉こそが鹿実の魂を体現するものです。

泣いても笑っても、最後の夏はあと2ヶ月。1日1日を悔いなく戦い抜いてください。私も引き続き、皆さんにできる限りのエールを贈り続けようと思います。