連覇成らず……鹿実野球部、第一シード神村学園の前に屈す。

残念ながら、今年は甲子園に届かず。

 

第105回全国高校野球選手権 鹿児島大会

 

準決勝

鹿児島実001 210 0=4H9 E2

神村学園001 322 3x=11H12E0

【投ー捕】

鹿実:井上、西、菅田ー溝口、新改

神村:松永、黒木ー品川、松尾大

※7回コールド

3年連続で実現した県内屈指の強豪同士の対決。鹿実はこの一戦を背番号10の速球派右腕、井上投手を今大会2度めの先発に立ててきます。一方神村はエース松永投手で必勝態勢。

鹿実は3回表、2番満留選手の適時打で先制するも、その裏神村にすかさず追いつかれる互角の展開。続く4回表、鹿実打線は松永投手を攻め立て二死ながら満塁の好機を作ると、前の回同点を許した井上投手が2点タイムリーヒット。自らのバットで勝ち越し点をもぎ取ります。

ただし、その裏の守りからは神村ペースの展開に。一死一二塁から井上投手がバント処理の際に一塁悪送球し1点差に。その後四球で満塁とすると、鹿実ベンチはここで左の技巧派、西投手を早くも投入。総力戦で戦う姿勢を見せるも、直後迎えた神村の主砲今岡歩夢選手に押し出しの死球を献上し同点。続く増田選手のスクイズを本塁封殺するも、一塁ベースカバーに入った名手満留選手が溝口捕手からの送球を逸らし二塁走者の生還を許す事に。これで神村は1点勝ち越し。

続く5回表に鹿実は丸山選手のタイムリスリーベースで一時は追いつくも、その後は防戦一方。勢いづく神村打線を西投手、菅田投手は抑える術がなく、3人の継投で計11失点。

一方序盤好調だった打線は神村の二番手左腕黒木投手の速球とキレのある変化球を捉えきれず、最終的には4−11で7回コールドゲーム成立。

過去2年鹿実に敗れた悔しさを知る神村にリベンジを果たされる形で、今年の鹿実の戦いは終止符を打たれる事となりました。

 

◆光った「三年力」も、リベンジに燃える王者に隙なし……悔しさを次の世代へ!!

完敗。悔しいですが率直にそう表現する他ない試合となってしまいました。実際中盤以降は鹿実が思い描いた展開に持ち込めなかったのが事実です。

相手の力が上なのは理解してましたが、このチームは多少の力差があったとしても喰らいつく「底力」が最大の武器。その強みを発揮する事なく敗れてしまったのは、「守りからリズムを作る」というチーム本来の野球が実践できなかった事に尽きます。2つのエラーだけでなく、投手陣が献上した計10個の四死球も、反撃の機運を作る上でマイナスとなったのは間違いないでしょう。

誰が悪いといいたいわけではありません。これはチームとしての敗戦です。この日試合に出ていた選手たちは、疑う余地のない今年の鹿実の最上のメンバーでした。このメンバーで戦い敗れたならば、相手の強さを讃えるべきです。

神村は技術や力強さはもちろん、今岡主将を中心に非常にまとまったチームでした。また、彼らは2学年続けて鹿実に敗れてきた先輩たちの背中を見て育ってきた選手たち。この一戦に賭ける気迫のようなものは、画面越しからも伝わってきました。私はまだファンとして鹿実が敗れた悔しさを拭う事ができていません。しかし、同時に勝った神村は勝者に相応しいチームであったと思います。続く決勝ではタイブレークの末、劇的なサヨナラホームランで甲子園を勝ち取りました。鹿実を圧倒したチームなのだから、ぜひ甲子園でもその強さを証明する戦いを魅せてほしいと願います。

一方の鹿実ですが、今年のチームもここまで勝ち残るまで決して平坦な道のりでなかったのも事実。秋の大敗直後に主将の退学。そこから再出発を経て、なんとか今年も優勝を狙える位置まで登り詰める事ができたのですから。これは紛れもない3年生たちの努力の成果です。甲子園に届かなかった以上、満足いく結果ではなかった事でしょう。それでも鹿商戦の平山主将のホームランや、準々決勝の「伝統の一戦」で見せた打棒、神村戦序盤での濵嵜選手と植戸選手の甲子園を知る二人の活躍、木村選手の気迫の守備に、レギュラー剥奪から這い上がった小村選手の活躍……宮下監督が強調する「三年力」は、今年のチームにも間違いなく備わっていたと思います。

そして、その3年生たちと共にグランドで戦った2年生たちに、私はこの日の悔しさを忘れないでいて欲しいと願っています。今年の神村がそうであったように、何より過去甲子園にたどり着いた先輩たちがそうだったように……悔しさを知るチームが、本当の強さを手に入れるのですから。栄光だけではなく学年を超えた悔し涙の積み重ねこそが、鹿実野球部の伝統の正体なのです。

おそらく、秋の大会以降鹿実は優勝候補として名前が上がってくるでしょう。今年の2年生が実力者揃いなのは間違いありません。ただし、九州大会への道のりは決して安泰とは言えません。同じく2年生レギュラーを多く抱える神村は、この夏甲子園を経験した上で秋の戦いに臨んできます。神村を決勝で土俵際まで追い詰めた鹿屋中央には県内屈指の右腕谷口投手が残りますし、鹿実を苦しめた樟南もエース新藤投手や4番坂口選手といった中心選手が引き続き主力となって立ち塞がる事でしょう。甲子園を目指すためには、そういった強敵を倒していかなければなりません。

「勝って我々の野球を証明する」

新チームでは指揮官のこの言葉を体現できるように、私は引き続きファンとして鹿実の野球を追いかけて行くつもりです。

 

◆大きな野球小僧、永遠に

神村戦の直前に、悲しい一報が舞い込んできました。鹿実野球部OBである、元阪神タイガース横田慎太郎さんの急逝です。

かつて私にとって「新聞やテレビの向こう側」の存在だった鹿実野球部。そこから球場に足を運び、この目でその戦いを見届けたいと思うようになったきっかけが彼でした。

野田昇吾投手や豊住康太主将を中心に神宮大会準優勝や選抜ベスト8の実績を提げて凱旋した2011年のチーム。その強力なラインナップに、福永泰志選手と共に一年生ながら名を連ねた横田選手には、私もその時点で「いったいどんな選手なんだ」と興味深々でした。

早々と結果を出す福永選手と違い、当初から目立った成果を出せたわけではありません。ただ、NHK旗で代打として打席に立った横田選手の纏う迫力に、私は大きな可能性と期待を抱いた事だけははっきりと覚えています。

新チーム以降も大きな体とパワーをうまく扱いきれず結果を出せない試合も少なくありませんでしたが、試合を経る度に着実に上手くなって行く彼の成長度は勝敗を超えて楽しみになっていきました。3年の頃には手がつけられないレベルの選手となり、私は見たこともない速度の打球を目撃するようになりました。

肉体的ポテンシャルにこそ恵まれてはいましたが、決して器用な選手ではなかったと思います。ただ、誰よりも野球が好きで、野球を上手くなりたい。そんな純粋な思いがプレーから滲み出た彼を見る事が、当時の私の最大の楽しみでした。さらに彼を通して、私は画面越しでは気づく事ができない鹿実野球部の魅力にも魅せられていきました。

残念ながら、横田選手は甲子園にたどり着く事もなく、プロの世界でも大成する事もありませんでした。しかし、見た人誰もが魅了される素晴らしい選手だったことは間違いありません。

あまりにも若く、早すぎる別れ。それは残念でなりません。

しかし、彼のような選手が鹿実のユニフォームを着て、泥だらけになりながらプレーしていた日々を私は今も鮮明に思いだす事ができます。

横田慎太郎というすごい選手がいた事を、私はこれからも忘れる事はないでしょう。

長く辛い闘病生活、本当にお疲れ様でした。

謹んで哀悼の意を表します。