鹿実野球部、優勝に向け好発進!〜選手権鹿児島大会、初戦コールド勝利〜

第103回 高校野球選手権鹿児島大会

◆一回戦

種子島中央 000 00=0

鹿児島実  340 21x=10

【投ー捕】

種中:河野、砂坂ー古一、河野

鹿実:大村、森山ー城下

【長打】

二:井戸田、板敷(鹿実

【試合経過】

鹿実が序盤から種子島中央を圧倒する試合展開となりました。先発の大村投手が初回四球と安打でピンチを招きながらも無失点で切り抜けると、その裏の攻撃では先頭城下選手の安打を足掛かりに、盗塁、長打を絡め一挙3点を先制します。これで主導権を握った鹿実は、2回にも打者8人の猛攻で4点を追加。守っては大村投手、森山投手の5回完封リレーで相手打線を封じると、最後は城下選手がこの日3安打目となるサヨナラタイムリーでゲームを締め、5回コールド勝ち。完勝で初戦突破、二回戦進出を決めました。

 

躍動する主役たちと、新たな鹿実野球

まずは鹿実野球部員、指導者、関係者の皆様、初戦突破おめでとうございます。どんなチームでも硬くなると言われる夏の大会の初戦。ここを完封、最短の5回コールドといういい形でまとめる事が出来たのは、次戦以降を考えても大きな意味を持つでしょう。

試合開始時に目を奪われたのは、なんといってもそのスターティングラインナップ。主砲の城下選手、小倉選手を1、2番に配置し、チャンスメーカーを務めてきた井戸田選手を4番に据えるこれまでになかった打順。これは調子が上がらない城下選手と小倉選手の復調に繋げたいという宮下監督の意図から生まれたものとのこと。私も九州大会以降下降気味の打線を活性化させるためには何か起爆剤が必要だとは感じていましたが、この思い切った采配が今日の試合では結果的に機能しました。

1番に起用された城下選手は押し出し四球含む全打席出塁の3安打2打点をあげ、4番の井戸田選手は球場に駆けつけたお兄さん貴也さんの期待にも応える2安打2打点の活躍を見せてくれました。さらに驚いたのは、「堅実、王道野球」が代名詞でもある鹿実が初回から見せた積極的な走塁です。初回だけで4つの盗塁を企図するような野球は、これまでの鹿実野球部には見られなかったもの。以前「今年の選抜を優勝した東海大相模のアグレッシブな野球に強いインスピレーションを得た」と話していた宮下監督ですが、恐らくこの采配にも影響を受けた上のものでしょう。勿論上のチームにもこの野球が通用するかはまだ未知数です。対戦チームのレベルが上がるに従って普段の堅実野球にシフトする可能性も十分あるでしょう。ただ、この試合を目にしたライバルチームには、もしかしたら「今年の鹿実野球は違う」というプレッシャーを与えられたのではないでしょうか。そういった意味でも、重ねますが今日の勝利はスコア以上に大きな意味を持つと私は思います。

 

「遊び」を以って試合を制せ

打線が繋がり守りでも無失点ということで、文句なしの試合内容……と思いがちになってしまいそうですが、負けたら終わりのトーナメントで大事なのは「勝って兜の緒を締めよ」という姿勢です。完勝とはいえ、この試合でも攻守ともにいくつか綻びも見せたのもまた事実です。勿論初戦の硬さはあったでしょうが、優勝候補と言われるチームはその小さな綻びを狙う試合巧者ばかり。鹿児島を勝ち上がり甲子園に行くためには、一戦一戦毎に課題を修正し、「戦うごとに強くなっていった」と言われるようなチームを目指していかなければなりません。

この一年通して課題だった内野守備は、平石選手のショートコンバート以降一定の安定感を見せています。しかし、一方でこの試合もノーエラーで締める事が出来ませんでした。これはエラーを記録した福崎選手だけの問題ではなく、内野陣全体に危ないゴロの処理や悪送球に繋がりそうなプレーがいくつか確認できた事からもチーム全体の課題である事は間違いありません。この試合を現地で観戦したOBの井戸田貴也さんは、「(プレー中における)攻守の準備不足」を指摘していました。ボールを打つための間の取り方、守備に置いての声かけ等が不足している印象、という主張です。私は競技経験者ではなく技術的には素人ですし、現地観戦ではないためそこまで詳しい事柄を分析出来ませんでしたが、確かにその指摘には頷ける部分が多いように感じます。

鹿実野球部の伝統の武器は、豊富な練習量に裏打ちされた攻守における鋭く厳しいプレーです。ただ、その反作用として打撃、守備ともにボールと衝突するような直線的な動きになり、打ってはどん詰まりのゴロ、守っては球際の捕球ミス…といったプレーが出てしまう。私が過去見てきた鹿実の敗戦パターンは、そういったプレーが頻発した時でした。

恐らく宮下監督や、選手たち自身もそういった課題を自覚している事でしょう。実際宮下監督は例年この時期になると「遊びをもってプレーする事」「こじんまりとならず、大きくプレーしろ」といった指示を飛ばす事があります。普段の練習からくる反作用から選手たちを解放する意図があるのではと、個人的に解釈してます。

勿論、最後の夏の大会は負けたら終わりなので、選手たちも必死です。ただ、必死さの中にどこまで余裕を持てるかが、今後の試合では問われてくるのではないでしょうか。

自分のプレーだけに集中せず、相手や周りを見る余裕はあるか。プレーの予備動作に「遊び」はあるか。

野球というスポーツは、突き詰めるとボールゲーム。この競技を制する事ができるのは、しっかり「遊べる」チームです。

鹿実の魅力である泥臭さ、必死さの中に「遊び」が加われば、このチームはさらに上のステージに行けるはずだと、私は確信しています。

 

「仲間」の思いを背負って、勝者は征く

種子島中央に勝利した鹿実ですが、今年のチームには主力打者の小倉選手にリリーフで登板した森山投手という2人の種子島出身者がいます。この試合にも出場した彼らは、当然地元で幼い頃から顔見知りも多いチーム相手に様々な思いがあった事でしょう。鹿実種子島中央を下した裏では、同じ島内の種子島も初戦を戦っており、こちらは延長戦の末に敗れています。種子島に本拠地を置くチームはこれで鴨池から姿を消す事になりましたが、種子島出身の2人には同郷の学校の仲間の分まで戦って欲しいですね。

かつて宮下監督は甲子園出場時に地元兵庫の高校の野球部がグランドを貸し与えてくれた際に、「高校球児はみんな野球で繋がっている。甲子園に出る我々は、この高校を含む全国の球児たちの思いを背負って戦わなければならない」と選手たちに説きました。私もその思いには大いに賛同します。私学であれ、公立であれ、離島であれ、高校球児の甲子園を目指す思いは同じ。だからこそ、甲子園を目指す鹿実は、倒した相手チームの思いを背負って次の試合に臨まなければなりません。古臭く、押し付けがましく、暑苦しい、時代遅れの価値観かもしれない。それでも、今の時代にわざわざ鹿実というチームを選んで集まってきた選手たちは、この「背負う事」を意気に感じる集団なのではないでしょうか。

これから戦う相手はどんなチームであれ、甲子園に特別な思いを抱く強敵ばかり。その強敵を倒し続けた先に、憧れの舞台は現れます。

この先勝ち続けられるかは分かりませんが、私は今年の鹿実にはその舞台を目指す資格が十分備わっていると信じています。

ファンとして願うのは当然勝利ですが、ただ勝つだけなく対戦相手が納得するような戦いぶりを見せて欲しい。

身勝手な要望かもしれませんが、次戦以降も鹿実らしい魅力的な戦いで勝ち進む事を期待してます。