一つの、「夢」の終わり

勝負の世界は、残酷だ。

勝者は確実に敗者を作り次のステージへ進み、敗者はその時点で戦う権利を失う。

だから敗者にできる事は、己を倒した相手の力と健闘を称え、敗れた現実を受け入れる他にない。

 

こんな事を書き出しているのは、私自身が鹿実野球部の敗戦の事実を受け入れ切れてないからでしょう。確かに鹿児島城西は強敵だと認識はしていましたが、それでも私は鹿実野球部の勝利を信じていました。このチームなら、県内無敗の王者になれるはずだと確信していたので。

しかし結果は大差の敗戦。試合を見届けることができず、結果だけでその事実を知った事もまた無念でした。

使い古された言葉ですが、これが高校野球の怖さ。どんなに努力しても、力があったとしても、負ける時は呆気ないもの。

城西はやはり八方投手はじめとした個々の選手の力はもちろんですが、選抜出場という大きな結果を出した事により自信と誇りを確かなモノにしたのでしょう。これほどの大差で鹿実を倒したからには、是非ともこのまま頂点を極めてほしいです。

 

鹿実野球部は、確かに敗れました。ただ、今年の三年生を中心としたこのチームに、私は夢を抱いていたのも事実です。

髙田選手、平選手といった現三年生たちを初めて一年生大会予選で見た時、「この学年が最上級生になったらどれだけ強くなるんだろう」とワクワクしたのを昨日のように憶えています。その後も加島投手、古川選手など新たなタレントが続々と現れ、チームとしても確かに成長していきました。「このチームなら、きっと全国を驚かす事ができるぞ」、と……

しかし、彼らが最後の夏に甲子園を目指す事すは叶いませんでした。新型コロナウイルス禍が彼らから選手権ーー甲子園を目指す戦いの場を奪う事になったからです。

それにもかかわらず、彼らは鹿実野球部として戦う事を諦めなかった。夢を奪われても絶望を押し殺し、自分たちにできる事を全うしたのです。私はその事に強い敬意を抱いています。原口主将が掲げた力強い「県内無敗」というスローガンには心を打たれました。

「甲子園が無くなるかもしれないのに、それでも諦めず必死で練習に励む教え子たちを見ると、涙が出そうになる」、そう語った宮下監督の表情も忘れられません。

彼らの直向きさが、多くの大人を動かしたのは間違いないでしょう。

 

三年生が最後まで鹿実野球を全うした事により、鹿実野球部の伝統も次の世代へと引き継がれます。

この敗戦の悔しさは、必ずや後輩たちが晴らしてくれるはずでしょう。彼らは三年生の立派な背中を、しっかりと見てきたのですから。

 

最後に。

 

鹿実野球部を引退する三年生部員の皆さん、本当にお疲れ様でした。

ファンとして追いかけ続けたものとして、皆さんの事を誇りに思います。

皆さんのこれからの人生も、引き続きファンとして応援させていただきます。