鹿実野球部、好投手攻略でベスト4進出!!次戦、更なる強敵へ挑む。

第103回 高校野球選手権鹿児島大会

◆準々決勝

大島   000 000 0=0

鹿児島実 001 232 x=8

【投ー捕】

大島:大野、前山、大野ー安田

鹿実:赤嵜、大村ー城下

【長打】

二:平石、小倉、城下(鹿実

三:赤嵜(鹿実

本:濱田(鹿実

【試合経過】

今春の県大会準決勝の再戦となったこの試合。マウンドに上がったのはその試合で完封勝利を挙げた赤嵜投手でした。

初回の守りでは二死からの連打で一、二塁のピンチを招きますが、ここで大島5番の瀧選手のヒット性の当たりをセカンド福崎選手が好捕。難なく捌いて0で切り抜けます。一方攻撃面ではいきなり先頭の平石選手が二塁打を放ち先制のチャンスを演出しますが、続く福崎選手の送りバントを失敗し併殺に。ここから大島先発大野投手にエンジンがかかり、140キロ超えの速球に鹿実打線は押され2イニング無得点が続きます。

投手戦の様相の中、まず試合を動かしたのがこの日8番まで打順を下げた小倉選手でした。3回裏の一死から、ここまで不振に喘いできた元4番打者が鋭く振り抜いた打球はライト頭上を超える二塁打に。続く木村選手は凡退しますが、ここで迎えたのが今大会乗りに乗っている1番平石選手。相手バッテリーの厳しい内角攻めをなんとかファールで粘って交わすと、外角に甘く入った球を見逃さずセンター前へ運び1点先制。続く4回も4番城下選手、5番赤嵜選手の連続長打などで2点を追加すると、5回には濱田選手のチーム今大会初本塁打となる3ランが飛び出し6点をリードしてほぼ試合を決定付けます。

守っては2回以降立ち直った赤嵜投手が大島打線をほぼ寄せ付けない好投を見せ、7回途中まで投げ無失点。終盤にピンチを迎えたところで降板となりますが、代わったエース大村投手が自身最速となる141キロを記録しながら相手打線の反撃を断ち、ここで7回コールドが成立。鹿実はこれで4戦連続完封コールドによる勝利。前回甲子園出場を果たした100回記念大会以来となる3年ぶりのベスト4進出を決めました。

 

一戦ごとに、逞しく

結果的に鹿実の完勝で終わったものの、序盤の両チームの攻防は非常に見応えがありました。

野投手が左腕から繰り出す剛速球は評判通りの威力でしたが、何よりマウンド上での立ち振る舞い、90キロ台の緩い変化球を交える冷静さ、時折見せる勝負を楽しむような仕草……とても2年生とは思えない末恐ろしさを感じました。しかし、そんな好投手相手でも今の鹿実打線は怯みません。序盤こそ大野投手の140キロの速球に押せれ気味ではありましたが、凡退した打者も含め食らい付いていく姿勢には「アウトになってもただでは終わらないぞ」という気迫が溢れていたように思います。そういった一人一人が与えるプレッシャーの積み重ねが、平石選手の先制タイムリーを生んだのだと私は見ています。そして、粘って粘って最後に甘い球を引き出した平石選手の一打は、結果的に試合の流れを決める決定打となりました。

選手一人一人の活躍をあげればキリがありませんが、不振で打順を大きく下げた小倉選手の火の出るような当たり、初戦エラーを記録した福崎選手が見せたチームを救う好プレー、代打や途中出場の多かった濱田選手の会心のホームラン。グランドに立つ一人一人の姿が逞しく見えました。これが宮下監督が要求する、「ふてぶてしく大胆な野球」なのではないでしょうか。

ふてぶてしさ、といえば忘れてはいけない選手がもう1人。今大会初先発で投打に大活躍した赤嵜選手です。マウンドから常に打者を見下ろすような自身満々の表情、淡々と役割を果たすような冷静な投球、その反面三塁打を放った時に見せたヘッドスライディング。そこには「同じ二年生投手に負けるものか」というような意地があるようにも見えました。こう言った下級生がいると、3年生にも火がつくはずです。

振り返れば秋とNHK旗に渡る対城西戦2連敗、九州大会の勝利寸前からの痛恨のサヨナラ負けと、このチームは何度も敗北の悔しさを味わってきました。唯一の栄光である春の県大会優勝も、本来理想とする勝ち方がほとんどできないまま必死で掴んだものでした。

そういった過去を見てきたからこそ、この夏の彼らの戦いぶりを私は感慨深く思います。何度負けても、失敗しても、その度に立ち上がる。そんな鹿実野球部だからこそ、私は世代が代わろうとも愛さずにはいられないのです。

このチームなら、きっとまだまだ大きな事をやってくれるでしょう。

 

たち塞がる王者

とは言ったものの、感慨に耽るのには早すぎます。あと2戦、この高く険しい山を登りきらなければ甲子園にたどり着けないからです。

土曜日の準決勝で相対するのは、昨年の独自大会覇者であり、一昨年の甲子園出場校神村学園。春とNHK旗こそらしくない敗戦が続いたものの、この夏の戦いを見る限りキッチリ本番を見据えて仕上げてきた様子。打撃力に関しては相変わらずで、今大会も1番甲斐田選手を中心に4試合でチーム本塁打6本を放つなど恐ろしい破壊力を披露してきています。投手力も荒々しいながら最速148キロの速球を力強く投げ込むエース泰投手に、二年生ながら安定感抜群の投球を見せる内堀投手と駒揃い。正直、このチームに勝つのはそう容易ではないでしょう。

しかし、困難な相手だからこそ戦う価値があり、その中で勝てばこそ値打ちが出るというもの。6年前の創立100周年を甲子園出場で飾った年の夏、準決勝の相手は同じく神村でした。当時の神村は選抜帰りで、県内公式戦無敗の絶対王者の立場。一方の鹿実は一度も県レベルでの優勝を経験がない第5シード。前年夏もコールド負けしている相手でもあり、下馬評は神村の圧倒的優位だったと記憶しています。そんな逆風の中、創立100周年世代の鹿実は持ち前の粘りの野球で勝利し、勢いそのままに甲子園を勝ち取ったのです。当時の実力差からすると、今年のチームは決して神村相手にもそう遅れをとってはいないと思います。

ただ、忘れてはいけないのは、勝負を左右するのはチームの表面的な強さだけではないという事です。これまでの夏とは違い、準決勝まで1週間近く休養日が設けられた今大会。これまでの大会の流れが一旦切れてしまう以上、初戦のような緊張感の中戦う事を強いられる事が予想されます。昨年の独自大会を思い出しても、鹿実は市大会を勝ち上がって迎えた県大会初戦で城西相手によもやの大敗を喫したのは記憶に新しいです。日程が空いた中で戦う強豪との一戦は、とにかく今まで通り地に足をついて戦えるか。ここが問われてくるでしょう。浮き足立った状態で戦ってしまえば、次の相手は間違いなくそこを一気に突いてきます。この休養期間を大事に使いつつも、土曜日までにもう一回チームを引き締め直して試合に臨んで欲しいですね。

夏を連覇している神村は、まごう事なき現在における鹿児島の王者。「王道野球」を自認する鹿実にとっては、絶対に倒さなければいけない相手です。私はファンとして、鹿実が挑戦者としてこの王者を撃破し、そのまま真の鹿児島の王者になるという瞬間を待ち望んでいます。苦しい戦いになるでしょうが、最後に勝利を掴むのは鹿実だと信じて、次戦も声援を贈らせていただきます。

 

この一年間、流してきた汗と涙は間違いじゃない。それを証明しに行こう!!